Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
はじめに
リハビリテーション医学の概念を端的に言い表わすことは困難であるが,その根底にある基本目標は患者の残存能力を日常生活動作(Activities of Daily Living,以下ADLと略す)として最大限に表出させ,必要に応じて補助具の利用や外部環境の改善などにより,患者が順応性のある人間生活を送れるように援助することにあるといえる.
リハビリテーション医学は「評価で始まり評価で終る」と言われている.これは,リハビリテーション医学において,障害内容や,その度合いの把握が他の臨床医学における診断学に匹敵するほどに重要であることを意味していよう.
これまでも,患者の障害度,予後の推定に関した研究は種々の疾患について報告されていて,なかでも脳卒中片麻痺に関したものは数多い.しかし,それらの多くは医師が患者の医学的側面からのデータに基づいて研究報告されたもので,理学療法学的側面から患者の障害度に基づきADLの表出面について研究されたものはない.
片麻痺のリハビリテーション医療における予後に関した報告で,阻害因子に基づいたものでは,杉山1),Peszczynski2),重野3),上田4),福井5)らのものがある.総合的な機能検査に基づきそれぞれの項目を点数算定したものは,Sokolow6),3~4段階付けしたKaplan7),Moskowitz8)などの報告がある.長尾9)らのようにBrunnstromによる運動機能回復段階テストとADLや歩行能力との相関性を見ようとする研究は比較的に数多く,この事実は我が国において,片麻痺の障害度テストがBrunnstromの回復段階テストに主眼が置かれている傾向を示しているようである.
その他に,病型や損傷部位に基づいた報告では亀山10)らのものがある.
筆者は長年片麻痺患者の理学療法を行ってきたが,その間,患者の残存能力がADLとしてどの程度表出されているか,そして,その表出率を知る方法を見い出せないかという問題意識を持ち続けてきた.このような問題意識の背景には患者の残存能力がそのままADLとして表出されえず,むしろ両者間の喰い違いが大きいことが度々見られるところにあった.リハビリテーション活動を通して患者のADL水準を高めることは重要課題の一つである.よって,そのためには患者の残存能力の表出率を知ることが重要となる.
今回の研究目的は,上記したように,片麻痺患者の残存能力水準とそれが実際に表出されたものとしてのADL水準との比較検討を行い,残存能力の表出率を知るための評価システムの作成を試みることであった.作成に際し,臨床的応用を考え,複雑で高価な機械器具を用いず従来より臨床家が用いてきた検査方法を中心にして,35~40分程度の所要時間で実施できることを条件とした.
Copyright © 1981, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.