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はじめに
交流分析(Transactional Analysis,以下TAと略)は,九州大学名誉教授,池見酉次郎により日本に紹介され,「交流分析」と邦訳されている精神療法の一手法である.しかし,精神分析が単なる療法に留まらず,人間を理解する学問として広く応用されるようになっているのと同様に,TAも「人間理解のための有効な理論と方法」とみなされるべき分野である.TAの特徴は,平易な日常語で,「今,ここ」で捕え得る現象を分析するところにある.自分に対する気づき,白発性と親密さの再確認を通じての自律を目的とするTAの概略と,応用を中心に稿をすすめる予定である.言葉を変えれば,読者が日常業務の中で経験的に行っていることに対して,TAの理論的枠組みを与えようとする試みである,といってよい.抽象的な理論を通じて人間を理解するのではなく,まず目の前にいる人を観察し,その現象を分析するのがTAの手段であるからだ.
TAは,1910年にカナダのモントリオールで生まれ,後にアメリカに帰化し,1970年にカリフォルニアで没したエリック・バーン(Eric Berne)により,1950年代半ばに開発された.彼は精神分析という専門分野で長年の研讃を積んだ医師だが,従来の治療哲学や理念にあき足らず,「より効果的手法」としてのTAを編み出したのである.TAの概念は独自のものだが,当時アメリカで台頭していた多くの実験的試みや手法,理論なども広く網羅しており,社会精神医学の思想も色濃くみられる.
TAの基礎理論は,バーンの著作すべてに加えて,彼の死後1971年に設定され,毎年傑出した論文に与えられるエリック・バーン記念科学賞の受賞論文により構成されている.歴史的発展を追うより,ここでは「患者理解」の上で有効であり,すぐに実践,応用出来るものから説明していこう.
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