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はじめに
筋萎縮を主徴とする疾患は多数にのぼるが,その多くは進行性の変性疾患であり,遺伝性の確認されているものも少なくないなど種々の点で共通性をもっているので,「筋萎縮性疾患」あるいは「神経筋疾患(neuromuscular disorders)」として一括してあつかわれることが多い.それを大きくわけて筋原性(myogenic,筋萎縮の原因が筋自体にあるもの)と神経原性(neurogenic,前角細胞あるいは末梢神経線維の異常による二次的な筋萎縮)とに分けることはよく知られている.この2種類は多くの点で対照的であるので,表1のように整理して記憶しておくと便利である.
しかしこのようないわば教科書的な整理は,最近の研究の進歩により多くの点で修正されなければならなくなっている.たとえば以前は筋原性萎縮は近位型の分布(近位筋の萎縮が遠位筋よりも著明)をとり,神経原性萎縮はその逆の遠位型の分布をとるとするのがいわば常識とされていたが,最近は神経原性のものにも近位型を呈するものがあり(たとえばKugelberg-Welander病,Werdnig-Hoffmann病など),一方筋原性にも遠位型を呈するものが発見されている(遠位型進行性筋ジストロフィー症など).更に表1には含めなかったが,肩甲腓骨筋萎縮症(scapuloperoneal muscularatrophy)のように上肢は近位,下肢は遠位が主として侵されるタイプのものもあり,しかもこの疾患には筋原性のものと神経原性のものとの2種があるというように,ますます複雑になってきている.
またたとえば同じく近位型に属するものであっても個々の筋について詳細にみると,それぞれの疾患・型について筋萎縮の分布は決して同じではなく,かなりの特徴がある.たとえば進行性筋ジストロフィー症の肢帯型は本来いくつかの異型に属すべきものを便宜上一つのグループにまとめたものであるが,その中には本来の近位型(肩甲周囲筋がもっとも強く侵され,ついで肩関節筋,肘前腕,手の順に侵される)とならんで,肩甲周囲筋と肘関節筋とが共に高度に侵され,それにくらべれば中間の三角筋が意外に萎縮が少なく,筋力もかなり保たれているような特異なタイプの一群がたしかに存在している.またデュシャンヌ型と先天性筋ジストロフィー症(福山型)とを比較すると,前者では近位と遠位の差が著明であるが,後者ではその差がそれほど大きくなく,比較的全般的であるといった,同じく近位型であっても,その程度に差のあるものもある.またいわばもっとも近位である体幹の筋の侵され方をみると,あらゆる筋萎縮性疾患の中で体幹筋が早期から著明に侵されているのWerdnig-Hoffmann病のみであり,それに匹敵するのはかなり後期のデュシャンヌ型だけであるなど,疾患によってかなり異っており,決して体幹はもっとも近位の筋として必らず肩甲周囲筋よりも先に侵されるといったようなことはない.今後リハビリテーション医学の立場からこれらの疾患の障害学的な研究が進めば進むほど,このような各疾患・病型ごとの機能障害の特徴が一層明確に把握されるようになり,リハビリテーション・プログラムがそれに応じて一層精密化されるようになるであろう.
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