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はじめに
失語症を定義づけるのは,先ず失語症を特徴づけ,他の如何なる症状群とも異なった独立性のある比較的均質な症候によらねばならない.しかしながら,この重大な事実が長い研究史を持つにもかかわらず,必ずしも満足出来る解決がなされていない.
失語症の記載は遠く古代エジプト時代にさかのぼり1)Hippocrates時代には構音障害と失語症とが分離されて記載されていたという2).これらの古い記載はその内容において今日の失語症とかなりよく一致している.
Broca3)は1861年パリの人類学会で大脳機能の局在性について述べたが,彼が示した2症例は現在Broca失語又は皮質性運動失語とよばれ,今日なお症候学的に一つの単位としての位置を保っている.1874年Wernicke4)によって記載された失語症例は今日なお学ぶべき所の多い症例で,失語症学の発展に大きく寄与した.
BrocaとWernickeの記載は共に失語症状を大脳病巣部位の症候学的表徴,または特徴ある失語症状の病巣部位の診断意義に注目し,失語症学の研究方向が局在論に傾いた原因をなしたといっても過言ではないであろう・しかしながら,局在論からは「失語症とは何か」の問いかけには答えにくい問題を担うことになる.Marie5)はこの問題を解明して失語症は唯一Wernicke失語であると考えた.かかる考えが全体論として局在論に相対して失語症研究の第2の方向となった.
失語症とは何かとの命題は裏を返えせばとりもなおさず,人脳はどのようにして言語を作り出しているかの命題となる.失語症はほとんど左半球障害によっておこつている.失語症と左半球障害との関係は言語機能と左半球との関係の追求となり,左右半球の構造上の違い,左右半球を結合している脳梁の研究へと発展して行く.また,言語は人のみで高度に発達した機能である.その一因として人脳の発育の特殊性が注目されている.このように「失語症とは」の問いに対しての答えは多くの未解決の問題を含んでいる.
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