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Ⅰ.はじめに
バイオフィードバック(biofeedback)とは「生体が体内情報を何らかの補助により外部刺激としてとらえ,心身をみずから制御すること」と定義されている25).従来より心理学分野を中心に発達し,皮膚電気反応,心拍,血圧,末梢皮膚温,脳波などのコントロールが試みられている.また,リハビリテーション分野と関連して筋電図,その他が用いられている.本領域の研究は欧米諸国においては1960年代前半に開始されめざましい発展をとげている.我が国においても心理分野では,1960年代後半に研究が始まり主に自律神経のコントロール,およびその臨床応用も試みられている.一方,リハビリテーションにおける我が国でのバイオフィードバックの試みを遡ると,最初の考え方と試みは高木26)によるのぞきメガネ式アテトーゼ克服機,電鈴運筆習得機等に端を発すると思われる.最近,武部28),溝呂木17)らにより主にEMGを用いた治療の最新の知見が報告されている.
一方,片麻痺の治療を考えてみると,近年神経生理学的アプローチ等の発達があり,その効果は著しいものがあるが,自ら限界があることも否定できない.そこで,このバイオフィードバックの片麻痺治療への応用が諸家によって試みられている.
生体が意図した動作をスムーズにしかも合目的的に行なうためには,outputとしての運動系の重要性は言うまでもないが,inputとしての知覚系の働きの重要さを見のがしてはならない.正常歩行では,歩行中の各関節の角度変化,関節に加わる圧縮・牽引力,筋の収縮・弛緩・伸張の程度,足底への圧力などの量的・空間的変化および各々の要素の歩行周期におけるタイミング(時間的変化)などの末梢からの情報が時々刻々と中枢へ伝えられる.これを受けた中枢では情報をもとに判断・統合を行い運動系への命令およびその修正を行なう.これらは中枢神経系にプログラミングされ,知覚―運動環を形成し通常は自動的に遂行されている.
片麻痺患者では知覚障害を合併する場合が多く,Anderson2)によれば271例のうち何らかの知覚障害を示したものが80例(30%)存在した.中枢神経障害では運動障害が目につきやすいが,知覚障害がある時は末梢からの情報が不足または欠如したり,あるいは誤って中枢に伝えられるため正常な自動調節機構の作動はもはや困難である.ゆえに,あらゆる外的補助手段によって正しいinputを送り込み,それに対する望ましい反応を引き出し,その強化を計る必要がある.知覚障害に加えて,姿勢反射の障害,痙性,共同運動,筋力低下,失行・失認,視覚障害,拘縮,意欲の低下などの諸要素が出現し,片麻痺の歩行の阻害因子となっている.
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