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Ⅰ.はじめに
近年における主として中枢神経系疾患に対する神経生理学的アプローチの発達には目を見張るものがある.しかし,いかなる場合でも著効があるという訳でなく,むしろその逆の例もみられることは我々が日常の臨床で経験していることである.
最近になって所謂バイオフィードバックを利用した訓練法が脚光を浴びており,1969年にはBiofeedback Research Societyが結成されている.従来の方法で効果のなかった症例に劇的な効果を見たという報告も以下に紹介する様に相次いでいる.しかしこのバイオフィードバックによる生体のコントロール自体は決して新しい試みではなく1950年代に既に行われている1).エレクトロニクスを含めた医用工学の理論的,技術的発展と神経生理学の進歩とにより,今日の様に臨床の場で日常的に手軽に行うことが出来る様になったことは喜ばしいことである.
バイオフィードバック治療を理解する順序として末梢からのフィードバックによる随意運動の制御の構造を知る必要があるが,簡単な工学的モデルを考えると理解される(図1).これと同様なことが生体においても起っていると考えられている2)(図2).例えばテーブルの上のマッチ箱を取るとき,視覚からの情報を受けて,プログラミングされた運動の命令が上肢に送られ手を伸す動作が起こされる.運動部位からは中枢へ向って断え間なく筋の活動情況や関節の角度変化の状態をフィードバックすると同時に,場合によっては呼吸循環器系などの内臓の活動を調節する.一方中枢ではフィードバックされた情報をもとに,運動が意図された通り正しく遂行されたか否かをつねにチエックし,運動を維持,修正あるいは停止する命令を再び筋に送る.筋の円滑かつ台目的的な運動は,この様に運動する体の部分や視覚からの断え間ない知覚によるフィードバックがあって初めて可能となる.これを知覚―運動環(sensori-motor loop)という.多くの神経筋疾患による運動障異は,遠心性の機能障害,いわば狭義の運動機能障常としてではなく,知-覚運動環の異常として解すべきものである.運動の情況をフィードバックする窓口としては筋,関節の深部感覚や視覚の他に皮膚の触覚が重要であり,中枢神経系での制御には小脳が重要な役割を果たしていると考えられている3,4).バイオフィードバックを利用した生体活動の制御は,筋の活動(EMG)の他,脳波(EEG)の波型の調節や,心拍数,血圧,皮膚温の調節など自律神経系の領域でも行われている1)(図3).しかし木稿では紙面の都合上,運動器系の調節で,しかも臨床的に直接EMGを利用したバイオフィードバック治療に限って述べることとする.全般的な分野に渡る文献の紹介と批評はBlanchardが詳しく行っている5).また運動機能障害への応用でEMGを利用していないものには,位置や角度変化による脳性麻痺児の頚や上下肢の制御6,7),習慣性斜頚の矯正8),大腿切断者の義肢膝接手の伸展をフィードバックする方法9)などがある.
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