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はじめに
本特集号に用いられているバイオメカニズム(biomechanism)という言葉は英和辞典をひいても見出すことが出来ない.早稲田大学の加藤一郎教授を中心とする人工の手研究会(Society of Biomechunisms,Japan,現在はバイオメカニズム学会と改名)が昭和41年秋に,工学・医学・生物学などの関係者の間で不定期に情報を交換する目的で活動をはじめた時に造られた言葉である.1)
英和辞書をひいて出てくるbiomechanics(生体機構学)とは,古くから行われてきた運動記述学に源を発し,最近ポピュラーになった機械的運動学(mechanical kinesiology),生体組織のうち骨・関節・軟骨等主として硬組織の構造の力学的追求,筋肉の収縮に関する問題など力学的な手法を中心に解析を行う学問である.勿論,義肢装具もバイオメカニクスに含まれる.これに対してバイオニクス(bionics)と呼ばれる分野は,主として生体の情報を解明していこうとするもので,動力義肢装具のコントロール,最近発展しつつあるバイオフィードバック(biofeedback)の問題等を扱っている.
バイオメカニズムは,バイオメカニクスとバイオニクスを含んだ広義の概念と理解すべきであろう.
東京工業大学の梅谷陽二教授は,バイオメカニズムを応用生物工学(applied bio-engineering)におきかえて,次の三部門に分類しておられる2).
(1)医用工学
ME,医用機器,人工臓器,自動診断,リハビリ機器,医用計測,臓器シミュレーション,ホスピタル・オートメーションなど
(2)バイオニクス(生体情報工学)
生体神経系シミュレーション,感覚器官のモデル化,神経綱の解析,動物行動の解析,人工知能など.
(3)バイオメカニクス
硬組織と軟組織の力学,骨格系の力学,生体熱力学,医用材料,ヘモダイナミクス,移動運動の力学,ロボットなど.
このように生体に関する幅広い領域に工学がどんどん入りこんで来た理由には,現在の科学技術が飛躍的に発展しているにも拘らず,公害の発生,エネルギー危機など,ある面では行き詰りの状態が生じていること,その結果,生体の機能の巧妙さに対する認識が深まり,その研究を通して何か新しいものを求めようとするライフサイエンス志向があるためと云えよう.
ところでこのように範囲が広いバイオメカニズムのうち,われわれ臨床に直接関連の深い領域には運動解析,骨格系の力学,リハビリテーション機器(義手・義足等を含む)等があげられる.最近の幾つかの学会発表を中心に,臨床に関係を持つこれらの研究の動向について述べてみよう.
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