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1.はじめに
職業生活は個人の総合能力の行動表出であり,それによる広般な欲求を生活に転化するのが一般的な考え方であろうが,就職の機会,継続性が本人の諸能力や外的な諸要求,環境,条件等々によって,これらの適応にすこぶる困難なケースがみられる.それは一般社会の人々の教育,職業,社会的地位,経済力,思想,哲学その他それぞれの分野の相違によって構成されている混在社会であるし,職場もまた同様な構造を有している集団であるといえる.そして近代化,合理化の進む生産システムのもとで完全自立を彼らに求め期待することの可能性は極めて少ない.したがって適応援助の内容,方法等本人に最低限欠かせない適応欠陥を科学的にとらえ分折して訓練方針を確立し,具体的に実践展開していくことが精神薄弱児(者)にとって重要な基礎である.
しかし医学的側面にしても不明な点が多いのと同様に,行動の一側面をとらえても心理学的にあるいは教育学的にあるいは社会学的に解明することははなはだ困難である.とはいえ一般的に職場の要求水準(イ作業能率ロ労働持続の体力ハ社会性)を職業生活自立ラインとして規定し,その欠落した部分とその程度,またそれを補いうるもの.補いえない状態等を明確にすることは至難ではないが,日本には精神薄弱の職業問題の専門家は皆無といわれている.それは根本的に精神薄弱に関する学問的,技術的研究の遅れであり,また養成機関等の問題があげられよう
それはさておき当障害者センターでは本人ならびに保護者等の要請にこたえるため職業指導,訓練を実施しているが,精神薄弱児(者)の特性として多くは身体的機能固有の障害はみられず生育過程に発達の支障を有する場合が多く,動作そのものの未熟性が巧緻動作の低さとなってあらわれている.つまり他動運動,自運動,全身の活動等に劣弱性がみられる.したがって指先の動作,指および手首を含む動作,指,手首・前腕・上腕を含む動作,指・手首・上腕・肩を含む動作等の運動が重度になるにつれてすこぶる遅拙性が顕著である.
しかしながら医学的に機能そのものの障害がないため簡易な作業素材によって作業要領―手順,方法を丹念に反復訓練し,作業機能を高め可能な限り技能習熟の方向へと移行することが重要である.一方職場適応をはかる基本的生活指導および対人関係に重点的な指導を欠かすことはできない.
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