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Ⅰ.序
精神薄弱の定義は,“知的精神機能の発達障害と,社会への適応行動に障害をもつ”という,二本の柱からなっている.精神薄弱児の,知的機能の向上に対して,近年になって,真剣な努力が続けられてきた.米国のカーク博士の報告した,スラムの子どもたち(社会環境的精薄)の,著しい知能の向上は,世界の特殊教育者に,希望の光を与えたかにみえたが,現在では,真実の精神薄弱児であったかには,疑問であるという定説になっている.その後,精神薄弱の定義に,“知的機能発達の障害は,一時的でなく,持続的である”,との一条が加えられて,精神薄弱児の知的機能の向上,発達には,限界があることが現在では定説となっている.
しかし,精神薄弱児にとって,知的能力の向上こそが,最終の目標なのであろうか.実際の指導観察から,単なる知的障害以上に,精神薄弱児の教育指導や社会自立にとって,大きな壁となっているのは,自信のなさ,劣等感,情緒不安定などの,心理的側面であり,また,身体の弱さや運動発達の遅滞などの,身体的・運動的な側面である.
特に,運動発達の側面は,精神薄弱児にとって,可能性を秘めた分野である.それは,運動発達が,その運動器管を通して,歩く,走る,投げる等の,多様な日常行動をし,目的や状況に応じて使いわけ,生活自立,社会参加などの大前提となり,教育的・職業的社会的な問題に,深く関っているからである.また,運動発達は,心理面の安定や脳育として,知的側面へも,よい影響がみられるという,ドーマン・デラカト両氏の研究があり,運動発達の側面こそ,確実に効果を期待できる分野である.もちろん,そこには,たゆまぬ研究と,指導の創意工夫,忍耐があってこそ,成し遂げられるものである.
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