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I.はじめに
‘精神薄弱児の育て方’という題を編集部からいただいたが,前半に精神薄弱の定義,出現率,原因,特徴などを述べ,後半に育て方について書いてみたい.
‘精神薄弱’とは知能の遅滞した状態をいうのであって,疾患名(病名)ではない.つまり単一・特定の原因から起こる疾患ではなくて種々の原因により脳に病変が起こり,発達が障害されている状態を精神薄弱といっているのである.したがって,たとえばダウン症候群のように染色体異常による精神薄弱もあれば,出産時の仮死が原因となる精神薄弱もある.そして原因が異なれば,医学的にも心理学的にもそれぞれ異なってくる.
たとえば常染色体劣性であるといわれるムコ多糖類代謝異常(ハーラー症候群またはガーゴイリズム)による精神薄弱では,知能障害のほかに角膜混濁・骨変化・関節の伸展制限・心臓障害を伴っている.またこの場合,知能発達は2,3歳以後停滞するといわれている.また,前に述べたダウン症候群では,知能遅滞のほかに眼科的疾患をもち,結膜炎にかかりやすく,近視,斜視あるいは白内障を伴うことが多く,また心室中隔欠損,ファロー氏四徴症などの心臓奇形をも伴う場合がしばしばみられる.全身的に病弱で伝染性疾患に感染しやすい.行動特徴としては可親性があり,言語が著しく遅れるといわれている.
このように一括して精神薄弱児とはいっても,原因により種々の医学的問題を持っており,さらに家族環境,心理的特性が異なっているのである.したがって,精神薄弱児の育て方の場合にも,原則としてはひとりひとりの子供の医学的,心理学的,教育学的,社会学的診断を確実に行なってから,それに基づいた方針をたてる必要がある.
ところが,現状では医学,心理,教育のおのおのの領域がかなり個々別々に検査,相談,指導などを行なっている.病院で数多くの検査をし,診断はつけられたが,家庭での養育のしかたや幼児期教育のことになると全くといっていいほど無関係であったり,精神薄弱児施設では医学的管理が軽んじられて取り扱われたりしていることが多い.
精神薄弱児の早期教育の必要性が最近叫ばれているけれども,精神薄弱児を正しく取り扱うためには小児科医,児童精神利医,臨床児童心理家,ケース・ワーカーその他のスタッフが総合的に診断し指導できる体制が作られることが急務となっている.
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