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はじめに
肩や肘を動かすために働く筋肉の機能が失われると,たとえ手でつかむ力は十分よく残っていても物体をつかむことは困難である.これは肩や肘の機能が完全に働いてはじめて手の機能が十分果たされるからである.更にこのような患者は自分の頭や口へ手をもって行くこともできない.
このような肩の弱い筋肉群の代用を行なうために,また補助するために水平回転する金属製の腕をつけ,患者の前腕を支えてごくわずかの力で上肢の有益な運動を行なわせようとする補装具の一種を,BFO(Balanced Forearm OrthosisまたはBall bearing Feeder Orthosis)とよぶ.
手および前腕の部分を,回転する金属の腕で支え,その接続個所にボールベアリングを用いて摩擦を極度に小さくしてある.そのために身体体幹や肩などのわずかの運動で,患者は目的とする物を手でつかんだり,手を口にもってくることができる.
BFOは別名Feederとよばれるように,元来は患者が自分自身で食事ができるようにするために考案されたものであるが,更にいろいろの工夫をつけ加えればくしをかけ,ひげをそり,歯をみがき,口紅をつけたり,煙草を吸ったりできるようになるし,更にタイプ,書字,ゲーム,電話などまで可能になる.
したがって患者の日常生活動作(ADL)をある程度独立的にし,職業活動も可能にすることが期待されるわけである.
一般に車イスの患者でしかも肩,肘などの筋力低下やマヒの患者に用いられる.しかしSwivel armは車イスのみならず机でもつけられるし,場合によっては患者の体幹コルセットに接続してもよい.あるいは三脚などで支えて,公園のベンチとか自宅の居間とかで用いる可能性さえあるのである.
BFOの部品は,アメリカでは広く市販されているので,調整をきちんと行なえば作製は困難ではない.本邦でも最近商業ベースにのってきたが,まだ輪入品が主である.
BFOはいわゆるDynamic Arm Supportとして,他のもう1つ別の補装具のOverhead Slingよりもコンパクトで美容上もよく,また一度調整をすませると,長期間そのまま使用できるという利点がある.
弱くなった,またはマヒした筋肉群を代用し,補助するために重力の影響を除き,また重力を利用して不可能に近かった運動を可能にする.物理学的には簡単な2つの原理,つまり①斜面の原理と②第1度のてこ(シーソー)の原理の応用である.
そして,肩関節と肘関節を2つのベアリング(Ball bearing)によって代用して,複雑な範囲に手がとどくように設計されている.
BFOが一番最初に食事を自立的にする補装具として作られたのは,Georgia Warm Springs Foundationにおいてであろうと思われる.
その後あいついで各地でいろいろの工夫と修正がなされたが,その原理は全く同じものである.Georgia Warm Springs FoundationタイプをはじめとしてUniversity of Michiganタイプ,Texas Rehabilitation Centerタイプなどが有名であるが,特にRancho Los Amigos Hospitalタイプは有名で,現在広く用いられている.ここでもこれを代表的なBFOとして議論を進めたい.
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