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はじめに
今日ほど,教育の問題が大きくクローズ・アップされてきた時はない.そこには,戦後急激に増加した大衆のための高等教育が,その理想的理念と現実の内に矛盾があっての現象と思われる.
これは何も昨今問題になったT大学,N大学だけの問題ではなく,日本における高等教育全体の共通した問題であり,ひいては理学療法士や作業療法士の教育の場である学院にも関係がなくはない.それはなぜかというと,少なくとも新制高等卒業生を3か年間教育する場であり,単に短期間に行なわれる職業教育ではないという1つの事実からである.
その場のもつ時間と形態について後に述べるが,少なくともこの場は,高等教育機関であることにはまちがいない.
ここで問題になってくるのは,その場の性格である.もちろんここにおいて勉学する内容は,理学療法士なり作業療法士という法律上の身分をもち,また,一定の学問と技術を伴った者になるために必要なものが主たる部分を占めているが,その目的は,単に理学療法士なり作業療法士という抽象的で存在のないもののためでなく,A君とかBさんという人格をもって明らかに存在し,将来その人が身分として理学療法士なり作業療法士なりをもつであろう人間の教育であることである.このことを忘れて,理学療法士・作業療法士の教育は考えられないし,また存在しないのである.
これはちょうど,皆さんが治療するにあたって対象となるのは,片麻痺でも対麻痺でも切断でも精神分裂症でもなく,それらの状態をあわせもった,名前もあり―あるいは原始人に近い生活状態下にある人なら,名前すらないかもしれないが―明らかにこの世において人間として存在している,きわめて具体的なものを対象としていることと同じである.
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