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講座
医学的心理学(その3)―治療者・患者関係
Medical Psychology (part 3)
池田 由子
1
Yoshiko IKEDA
1
1国立精神衛生研究所
pp.35-39
発行日 1968年6月9日
Published Date 1968/6/9
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1518100114
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Ⅰ.はじめに
天下に名高い大病院で,名医だと信じている医師から処方された薬は,特別に効き目があるように感じるものである。たとえ,純粋に物理的,化学的な治療であっても,治療者と患者という2人の人間の間に成り立つ人間関係が大きく働いている。
ずっと昔に,施設収容児に多い夜尿症の治療にある新しい薬を使うことになったとき,1つの実験を試みたことがある。それは,子供たちを2つのグループに分け,一方にはその薬を何の説明もなく就眠前に与え,他方のグループの子供たちには,1人ずつ,この薬を飲めば必ず夜尿症は治るという支持や励ましを与えて,薬を服用させたのである。
言うまでもなく,精神的な保証を与えられたグループがよい成績を示したのに対し,ただ機械的に薬を与えられたグループは,ほとんど,何の変化を見せなかったのである。
治療者・患者関係,あるいは,治療的人間関係というのは,臨床の場所で,治療者と患者の間に成り立つ,特殊な人格的な関係である。治療者・患者関係が,大切なことは,臨床家であれば,誰でもわかっていることではあるが,この関係は,把えにくく,分析しにくい多くの面を含んでいるために,従来は非科学的なものとして軽視される傾向があった。
しかし,現在では,治療者・患者関係の重要性を認識し,これを単に口先だけで患者を言いくるめたり,表面的な暗示を与えるという意味ではなしに,そのありかたを科学的に理解し,治療に利用しようという傾向が強くなっている。
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