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I.はじめに
幼児期に高い罹患率をもつ滲出性中耳炎は,年齢的構成の点からも治療への協力が得られず,治療に苦慮する。そこでこの治療法には,諸家自身の経験的立場から非観血的療法や観血的療法を支持し,意見はさまざまである。発症の原因に関しても,発症年齢が生理的に上咽頭周囲組織の増殖・肥大の時期と一致し,これによる陰圧説,感染説,また,アレルギー説などが論じられている。しかし,この年代は,生理的に身体条件が変動しやすく,これに対して合目的生体の防御機構もおのずと備わっているかとも想像される。その理由の一つには,小児の耳管が太くて短いことが,換気に都合がよいpressure open typeであることや,小児や成人が睡眠中に嚥下回数が少なくなると,中耳腔や乳突蜂巣が陽圧化することなどが観察される。このような生理的機構を非観血的に条件のよい方向に導くことができれば,罹患率の低下,治癒の遷延化を低率化することも可能である。問題は発症が低年齢であり,これを早期に低年齢で発見しても治療に抵抗し,適当な非観血的療法が見当らないことである。原因の一つである耳管機能不全例では,換気能低下が引金となり,X線写真などに現われない早期な乳突蜂巣発育を抑制する病変が生ずる可能性もある。そこで,中耳腔を含めた乳突蜂巣の換気や排泄機能を甲期に改善する必要がある。先に著者らは,テクネシウムを用いて慢性穿孔性中耳炎の耳管排泄機能を観察した。これらの症例中に嚥下運動で経耳管性の排泄作用も認められるが,嚥下運動で耳管が開閉しない例でも,時間がたつと線毛運動で徐々に中耳腔のテクネシウムが咽頭に排泄された。この結果,耳管排泄機能は,耳管の開閉運動と直接な1対1の対応を示さないことを報告した1)。しかし,幼児の滲出性中耳炎例には,早期に中耳腔や乳突蜂巣の換気を強力に行い,乳突蜂巣を含めた中耳が一時的にせよ,高気圧置換されて,骨・気導差が改善し,生理的条件が確保されれば,排泄能の改善も好転しうる可能性があると考えた。そこで,高気圧療法が考案された。方法は,高気圧下でバルサルバやトインビーを行い,中耳腔や乳突蜂巣を一時的に高気圧置換し,減圧負荷で経耳管性に中耳腔や乳突蜂巣の陽圧脱出を行わせる方法で,この加圧,減圧を繰り返して乳突蜂巣(含中耳腔)までの空気置換を行うことが主目的である。また,この方法で改善の認められないものは,観血的療法が行われた。
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