特集 滲出性中耳炎—最新の知見—
I.基礎的知識
中耳腔貯留液の解析
茂木 五郎
1
1大分医科大学耳鼻咽喉科
pp.747-754
発行日 1984年10月20日
Published Date 1984/10/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1492209841
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I.はじめに
滲出性中耳炎は中耳腔に貯留液をもたらし,難聴を伴う中耳炎であるが,貯留液の存在は本疾患に必須である。中耳粘膜の少なくとも一部は呼吸上皮であることから,理論的には正常中耳にもごくわずか分泌液は存在することになるが,実際には採取しうる貯留液の認められる場合が滲出性中耳炎である。中耳腔貯留液の性状は中耳炎の成因と病態をよく物語り,またそれによって中耳炎の名称も異なってきたため,以前から貯留液の生化学的分析が進められていた。近年,免疫学や免疫化学の著しい進歩と相まって,貯留液の詳細な解析が可能となり,病因や病態解明に重要な情報を提供してくれるようになった。
以前は貯留液が滲出液か濾出液かが論議の対象であった。滲出液は血液成分が炎症反応によって血管外へ出たもので,蛋白,細胞,および細胞由来物質が高濃度で,必ずしも液状とは限らない。一方,濾出液は血液中のおもに液体成分が血管壁を通過して出てくるもので,軽度の炎症によっても生じるが,中耳腔では陰圧の結果によるとされ,蛋白,細胞および細胞由来物質の濃度は滲出液に比べて低い。しかし,両者の間には画一的な境を置くのは困難であり,とくに蛋白濃度から両者を区別することは,鼓室内で水分の再吸収が行われる中耳貯留液では難しい。滲出液も濾出液も血液由来である。肉眼的に中耳腔貯留液はcrystal clearのものからglue earにみられるような膠状のもの,また膿汁を思わせる混濁したものまでさまざまである。しかし,最近の知見で,貯留液の一部は分泌液であることが認められている。
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