特集 頸部腫脹の臨床
II.診断・治療
頸部手術上のポイント
村上 泰
1
Yasushi Murakami
1
1慶応義塾大学医学部耳鼻咽喉科
pp.857-864
発行日 1983年10月20日
Published Date 1983/10/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1492209683
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
I.手術の前に
1.患者体位と麻酔医
頸部手術における患者体位は,目的とする領域を伸展するよう,下顎をできるだけ挙上させるべく肩下枕を入れることが基本となる。注意すべきは,この体位では頸部皮膚は上方へ引っぱられて約2Cmほど上方へ偏位しているから,後で正常体位に戻したときに,皮切の位置が約2cm下方へずれることである。たとえば,甲状腺手術の際に,伸展位で輪状軟骨と胸骨の中間レベルに横皮切をすれば,後でそれがちょうど鎖骨の高まりに一致して緊張がつよくなり,ケロイド状になって好ましくない結果となる。次に注意すべきは,この体位での顔面神神下顎枝の位置で,例外なく下顎十下縁より低位となるから,最小限2横指離して皮切しないと損傷するおそれがある。
麻酔はほとんど全麻で,アドレナリン使用を念頭においてエトレンを用いる。麻酔医は患者の頭上に位置することになるが,手術台にコ型サスペンダーを固定すると,肘がこれにつかえて手術操作に支障となる。手術台から離れて独立したサスペンダーを用いるべきで,筆者はラリンゴマイクロサージュリーなどに用いる手台にコ型サスペンダーを固定し,これを手術台の頭側に置いて利用することとしている。麻酔医と患者が離れて位置するため初心の麻酔医はこれを嫌うが,頸部手術には必須の事項である。
Copyright © 1983, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.