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Ⅰ.緒言
下咽頭悪性腫瘍は一般に予後の良くない疾患のひとつであり,放射線,化学療法,あるいは二者併用によつても根治させることはむずかしく咽頭を含めた広範な摘除手術により著しい機能損失を来たすことが多い。しかしごく一部に限局した腫瘍の場合には喉頭を保存する部分切除法によつて発声嚥下などの機能を保存することも可能であり,下咽頭後壁や梨状窩外側壁に限局した腫瘍がこれにあたる。
下咽頭部分切除によつて生ずる粘膜欠損部は大腿内側などから採取する遊離中間層皮弁によつて修復するのが常法となつているが1)2),皮弁の壊死を来たして咽頭皮膚痩となり治癒が遅れ,瘢痕狭窄をのこしたり頸部の醜形をのこすこともあつて必ずしも最善の方法ではない。皮弁移植床が平坦な下咽頭後壁に対しては問題なく生着するが,確実な移植床のない梨状窩では,遊離筋肉弁などによつて裏うちしても,特に頸部廓清を同時に施行した症例では,しばしば壊死状となることは誰しも経験するところであろう。
Bakamjian3)4)の方法による前胸壁有茎皮弁(delto-pectoral flap,以後D-P flapと略す)は,下咽頭および喉頭さらに頸部食道まで切除した場合の一次的食道形成法として報告され,すでにわが国でも利用されているが5),第1報として報告した前額有茎皮弁6)と同様に支配血管が明確であつて壊死の危険がなく,delayを行なわなくても長大な皮弁が得られるなど多くの長所をもつている。
これらの利点を生かして,最近われわれのところでも中咽頭や口腔底から頸部に至る広い領域での欠損部修復にこの皮弁を用いて成功しているが,下咽頭癌で部分切除を行なつた症例でこの皮弁を応用してみた結果では,従来の中間層皮弁によつたものと比較して著しく良好な結果を得たので症例を示しつつその方法の概略を紹介する。
Post-excisional defect after resection of cancer in the posterior wall of the hypopharynx and the pyriform sinus was successfully reconstructed with medially based anterior chest ( deltopectoral) flap and with preservation of laryngeal functions.
1. In cases of radical neck dissection the pharyngeal resurfacing of the pyriform sinus can be accomplished most appropriately with pedicled skin flap.
2. Medially based anterior chest flap offers the possibility of reestablishment of the pharyngeal functions.
3. Hockey-stick incision in the neck provides excellent field for neck dissection and, in the second stage operation, an easy approach for making the pedicle flap separated with minimal cosmetic deformity.
4. The pedicled flap has a very little tendency to shrink and the newly constructed pyriform sinus would be maintained at sufficient width to allow endoscopic microexamination later for possible recurrence of the tumor.
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