特集 耳鼻咽喉科と感染症
V.感染症治療上の問題点
抗生物質の開発とその展望
若沢 正
1
Tadashi Wakazawa
1
1明治製菓
pp.885-896
発行日 1980年10月20日
Published Date 1980/10/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1492209165
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I.はじめに
Penicillin(PC)に関する最初の報告が行われてからちょうど50年を経過した。PCを化学療法剤として開発する試みはPC発見後10年を経た1939年にFlorey,Chain,Heatieyら1)によって本格的に開始された。この年には後にstreptomycin2)を発見したWaksmanが放線菌等を対象にして,グラム陰性菌に有効な抗生物質のスクリーニングを始めている3)。したがって,streptomycinの開発はPCの開発と時間的に密接な関連がある。
PCは1942年に工業生産が始められているのでstreptomycinの開発にはPCの経験が大きく寄与し急速な進展がみられた。PCとstreptomycinは,その後多くの変遷を重ねて今日の抗生物質の2大主流をなすβ-ラクタム群とアミノグルコシド群の薬剤に大きな進歩を遂げた。抗生物質に関する研究開発技術の原型は1944年頃にはほぼでき上がっていた。引き続いてchloramphenicol chlortetracycline,oxytetracycline等が発見され,1949年頃には,これらの抗生物質によって細菌感染症は間もなく臨床上ほとんど問題のない疾患になってしまうと考えた人々さえあった。
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