鏡下耳語
専門ということ
沢木 修二
1
1横浜市立大学
pp.406-407
発行日 1974年6月20日
Published Date 1974/6/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1492208077
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このごろ専門ということばをよく耳にする。一体「専門」とは何であろうか。「一般」に比べた相対的なよび名に過ぎないように思えてならない。他方専門ということばのうちにはあることに造詣が深い,尊敬すべきものというニュアンスをもつている。またそうであつてほしいと思う。出典によれば経書を研究するのに,ある種の書をもつぱら修めること(漢書)とされている。とするとあれこれと欲ばらないで,限られた範囲だけを掘り下げるという意味にとれる。科学の学び方として果してそれで良いのであろうか。
振り返えつて耳鼻咽喉科における専門ということを考えてみよう。医学生のころ耳鼻科自体がそのまま専門領域だと思い込んでいた。厖大な医学全般を学ぶものにとつてそれは自然な感想だつたと思う。ところがこの科を自分の終生の道と選び,修練を重ねていくうちに,そのなかで自分のやりたい領域が次第に限られてきたように思う。これは個人的な好悪によるというよりは,深く研究するにはあまりにもなすべきことが多いという,いわば他律的な成り行きであつたと考えている。
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