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I.はじめに
鼻咽頭癌(Nasopharyngeal carcinoma,NPC)は医学研究の分野で2つの課題を提供している。そのひとつは何故この癌が台湾を含む中国南部,香港など比較的限られた地域の住民に多発するのかという疑問で,他のひとつはこの癌の病因として多分にEpsteinーBarr Virus, EBVに疑いがもたれていることである。そしてこの病因を探索するため,46年4月から川村明義教授(東大医科研免疫)を班長とする研究班が,厚生省の科学研究費をうけて組織され,あらゆる角度から研究がすすめられている。小論では広くこの研究の現況を紹介し,臨床の側に立つわれわれ耳鼻科医のこの面での立場を眺めてみたいと思う。
研究班は疫学,病理,ウィルス,免疫,耳鼻科のいろいろな分野の人で構成され,ときどき研究会を開き,その間の研究内容を公表して情報の交換をはかつている。他方,既に3年前から伊藤洋平部長(愛知癌センター,ウィルス部)を日本側の長とし,葉曙教授(台大病理)を中国側の長とする日中共同研究班が組織され,おもに台湾におけるこの疾患の疫学および患者の血清についての免疫学的な検討が行なわれてきた。この日本側の研究班は3年を経て改組され,前記の川村研究班に引きつがれたわけである。他方,中国側も杜詩綿教授(台大耳鼻科)に主任のバトンが渡され,昨年11月改めて今後の協同研究のprojectが練り直され,その確約書が交わされた。
この研究班にあつて筆者の与えられた課題は,日本におけるNPCの血清疫学的調査で,一昨年9月から調査がはじめられた。ここでは今までにわかつた結果を紹介しながら,従来の文献を参考に二,三の展望を試みたい。ここに報告するデーターは,全国の大学病院および各都道府県の基幹病院における症例をお報せ頂き,それを集計したものである。執筆に先立ち,ご多忙中快くご協力下さつた先生方に厚くお礼を申し上げたい。なお蛇足ながらこの種の調査はこの研究班が継続する限り,毎年続けさせて頂きたいと念願しているので,今後ともよろしくお願いします。
さて,上記血清疫学的調査と平行して標本の組織学的研究も病理学者の助力を得て行なつている。これについても後にのべるように多くの先生方のご支援をいただきました。厚くお礼申し上げます。一般疫学,血清疫学,病理組織の三つの柱にわけて記述し,それに関連した臨床の二,三の事項についてもふれたいと思う。
By suspecting the EB virus as the culprit in the causation of the nasopharyngeal carcinoma NPC, recent studies have been concentrating on the various aspect of this disease such as epidemiology, pathology, virology and immunology.
This disease appears to be most prevalent in regions of Southern China and Taiwan. And the studies are conducted with the cooperation of the doctors of the latter.
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