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I.はじめに
近年エレクトロニクスの発達・社会福祉・教育学・特殊教育などが目覚しく進歩してきた。とくに難聴児,弱視児などの身体障害者に対する社会的な関心もたかまり,これらの早期教育による普通学級への進学が大きくさけばれている。これは早期に教育を行なわないと,幼児の場合,単に視聴覚の障害だけではなく,それによる言語の発達障害をおこし,ひいては精神面・情緒面の発育障害もひきおこすこともあり,こうした意味からも早期聴能教育は大切であり,すでに0歳からでも教育をはじめているところもある。
一方,しかし0歳からの教育は,診断する耳鼻科医・早期に相談を受ける小児科医・新生児スクリーニングに関心を持つ婦人科医などの協力が必要である。ここに乳幼児の聴力検査の意義がある。
一般に聴覚の検査法は,検者と被検者の間の意志の疎通を十分にはかつてから行なう必要がある。これらの検査は被検者の音の感覚に対する応答を指標として検査をするもので,普通の聴力検査には被検者の協力が必要なことが多い。しかし言葉の通じにくい乳幼児・とくに難聴・精神発達遅滞などのある子供には,これら成人・言葉の通じることを前提とした検査法をそのまま利用することが非常に困難である。ここに乳幼児の聴力検査をとくにとりあげる意義がある。
この検査の対象者は幼児,小児,精神・神経異常者,脳障害の重症者・詐病の疑いのあるものなどである。
ただこれらの検査法で1つ大きな問題となるのは,検者側の操作と判断のみによつて聴力が測定されるものであつて,これは被検者の聴覚といつた心理的な感覚の検査ではないことである。音刺激による被検者の種々の反応を検者が判定するので,これは聴覚の検査ではなく,音に対する反応検査である。また一方難聴児,精神発達障害児を実際に教育する側にとつては,もちろん,一般に耳鼻科医のいう聴力,すなわち最小可聴域値も大切ではあるが,言葉をきいて,理解すること,さらにはそれをおぼえて発語すること,いわゆる聴能が大切なわけである。しかしこの聴能という面まで考えると,これは聴力×社会環境×個人の能力×その他となり,これは他科と深く関係してくる。この中で聴力は大事な因子であり,ここにも幼児の聴力検査の意義がある。
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