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Ⅰ.緒言
音刺激に対する脳波上の反応が,聴力検査に利用されたのは1949年であるが,1950年代後半になつて,脳波に加算処理を行ない,誘発反応を記録することが人において可能となつた。こうして脳波を用いた他覚的聴力検査の道が臨床上広く開かれた。この誘発反応聴力検査は,聴力検査可能年齢を大幅に引き下げ,難聴幼児の聴力測定に大きな役割を果たしつつある。
しかしながら,幼児の検査は便宜上全身麻酔下に行なわれることが多く,それに伴う問題を無視することはできない。すなわち,この麻酔は確実な導入,十分な持続,速やかな覚醒を満足するものでなくてはならず,また呼吸抑制や嘔吐などの副作用が少ないものでなくてはならない。さらに反応を恒常的に得るために神経活動の抑制が少なく,しかも睡眠深度が一定であることが望ましい。
このように幼小児誘発反応聴力検査において,麻酔は難しい問題を提起するものであるが,本検査と麻酔剤とについて論じた文献は少ない。Suzukiら12)や林6)のバルビタール剤についての詳細な報告,Codyら3)の抱水クロラール使用の報告,そして船坂ら5)のγ-hydroxybutyrate(ジォロン,以下GHBAと略す)の使用経験と脳波学的検討などが主なものである。このGHBAは生理的に脳内に存在する物質であり,自然睡眠によく似た睡眠をもたらす麻酔剤であつて,本検査には有用なものと考えられた。ところでmonosodium trichlorethyl phosphate(トリクロリール,以下MTEPと略す)は抱水クロラールと同系統の薬剤であり,GHBAと同じく自然睡眠に似た眠りを生ずると言われている。また抱水クロラールと異なり,服用が容易であるので,幼小児の一般脳波検査に好んで用いられている。そして恐らくは,自然睡眠に似た睡眠脳波が得られる点からであろうが,最近誘発反応聴力検査にも汎用されるようになつてきた。すなわちGHBA,MTEPはともに誘発反応聴力検査のための麻酔剤として有望なものであつて,将来もこの両剤は誘発反応聴力検査に頻用されるであろう。
そこで本論文の目的は,著者らの使用経験に基づき,この両剤について,入眠する率,麻酔持続時間,麻酔時の脳波,副作用などについて比較し,また反応波形の比較検討を報告することとした。幼小児の誘発反応聴力検査実施にあたつて,参考となれば幸いである。
Evoked response audiometry in infants was performed during sleep induced by gamma-hydroxybutyrate (GHBA) and monosodium trichlorethyl phosphate (MTEP). No remarkable difference was observed in induction and maintenance of sleep between these two drugs. The side-effects, vomiting or salivation, occured in 6 infants out of the 58 given GHBA, and 1 out of 51 cases administered MTEP.
The EEG-study showed that MTEP-induccd sleep changed the sleep-stage from "light" to "moderately deep", then to "light" again as time elapsed, whereas GHBA-induced sleep, consisting mainly of slow waves, humps and spindles, had little change of stages.
As for the response, there was no difference in peak latencies between the two groups although the GHBA cases had a tendency to make the positive-negative-positive forms and the MTEP cases the positive-negative forms.
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