特集 最近の顔面神経障害の基礎と臨床
中耳炎による顔面神経麻痺の臨床
戸塚 元吉
1
,
小林 武夫
2
,
新美 成二
2
,
山田 文則
3
1虎の門病院耳鼻咽喉科
2東京大学医学部耳鼻咽喉科学教室
3墨東病院耳鼻咽喉科
pp.801-808
発行日 1971年10月20日
Published Date 1971/10/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1492207699
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I.はじめに
近年中耳炎に起因する顔面神経麻痺(以下顔神麻痺と略す)は,抗生剤の普及とともに他の中耳炎合併症の減少と軌を一にして稀なものとなりつつある。しかし発生頻度の減少は耳性髄膜炎や脳膿瘍などにくらべてむしろ遅いかと考えられ,また将来も決して,消失することはないと推定される。なぜならば後述するように急性中耳炎に合併するものについては,中耳炎発症と同時に麻痺がおこるので抗生剤治療によつて麻痺を抑制するいとまがない。また,真珠腫性中耳炎に併発するものについては,現在の抗生剤治療では真珠腫の発育や,その混合感染を完全には抑制し得ないからである。
なお従来中耳の炎症性疾患による顔神麻痺を耳性(otogenic)麻痺と呼称されてきたが,本特集の項目名でも分かるように他種の顔神麻痺も聴器とは深い関係にあるので,この表現は適当でない。中耳炎による,または中耳炎性(otitic)麻痺とすべきであろう。しかし,きわめて稀ではあるが外耳炎による麻痺の報告もあるので(Sadé1)),さらに,厳密にはotiticでなくmesootiticである。なおこの場合,中耳手術と因果関係のある麻痺は外傷性麻痺の分類に加えるべきである。
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