鏡下耳語
幼児急性中耳炎に顔面麻痺を来たした1例
川崎 達矢
1
1国立静岡病院耳鼻咽喉科
pp.476-477
発行日 1974年7月20日
Published Date 1974/7/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1492208089
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かつて中耳炎には重篤な諸合併症を伴い,多彩な診断や治療を行なうことで耳鼻科疾患の王座を占め,われわれの誇りとするところが大であつた。最近は抗生物質の恩恵により合併症や手術適応症は減少し,ややもすると急性中耳炎の診断,治療が姑息的になり専門医の関心も慢性中耳炎に集まつている。この時に当り幼児中耳炎が遷延して,外耳炎や耳下腺炎の併発かと専門家を迷わせた挙句に顔面麻痺を来たし,手術を行なつた1例に遇い,日常臨床家に示唆するところがあるので,敢えて報告を試みるものである。
1年6カ月の女児,昭和48年6月4日風邪をひいて小児科にかかつた。翌日から右耳痛を訴え耳鼻科医で急性中耳炎として鼓膜切開,薬剤投与を受けて一時は症状が軽快した。10日再び耳痛に泣いたが不運にも休診日で11日以後は簡単な耳処置で経過した。13目には耳下部に腫脹を認めて外耳炎を疑われた。14日も休診,腫脹は耳の前,後部に拡大したので21日には総合病院に転医した。再び鼓膜切開を受けた上に耳下腺炎の疑があると言われ,毎晩泣き通した。偶々ピーナッツを食べた後に血を吐き,発熱を来たしたので肺疾患を恐れて29日当院小児科に受診し,30日当科に回された。丁度その夜に患側の顔面麻痺が現われ,7月2日入院,X線写真で含気蜂窠の骨融解像を認めたのでBezold氏型乳様突起炎を疑つて,全麻下で乳様突起削開手術を行なつた。手術所見は後に述べるが,術創は約2週で治癒したにもかかわらず顔面麻痺は約2カ月の治療で全治に至らず,3カ月後にも軽度の麻痺が残つている。
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