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I.はじめに
本邦における食道鏡の臨床実際は,久保猪之吉教授にはじまり,現代の多彩な食道鏡検査は,小野教授により開発されたとしても過言ではなかろう。今回の"耳鼻咽喉科"よりの執筆依頼により(歴史的また綜説的な解説は省略することとして)筆者は,beginnerとしての,食道鏡に関する経験,批判および反省を試みたいと思う。
筆者の食道鏡検査は,フィラデルフィヤのペンシルヴェニヤ大学で,アトキンズ教授により教授をうけたのを最初とする。たしかレジデント第1年目の4週目位であつたと思うが,いきなり食道鏡を手渡され,何のことかわからず面くらつていると,"What is this?"とやられた。大いにあわてて"An esophagoscope sir"と答えると,"What kind?"とまたやられ,しどろもどろで"Jackson type?"と答えたら,"Do not ever perforate the esophagus by this!"と忠告され,しよつ鼻から,内視鏡には恐い思いが刻み込まれていたのをはつきり思い出すことができる。これは,現在もなお,未熟な私の食道鏡検査の一端を支える"無理をしない食道鏡検査"のよりどころとなつている。
とにかく,Atkins教授は,外面は真によろしいのであるが,内面が悪くて困つた。レジデントに対する態度は,まさに召使いに対するそれで,徹底した雷親父,"いじ悪じいさん"であつた。話によると,これは,彼の上司のGabriel Tucker先生の振舞が,まさにそうであつたらしい。したがって,Gabrielの息子John Tucker(私と同年にresidentをやり,現在はペンシルヴェニヤ大学のassistant professor)には特にroughであつた。
しかし,必要以上に厳格に教育されたお蔭で,まあまあ今日まで,食道鏡によるfatal accidentがないことには感謝している。
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