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I.はじめに
現在日本で,あるいは欧米で使われている耳鼻咽喉科学あるいは解剖・生理学の教科書を見わたしてみても,副鼻腔の生理的意義というものに満足な答えを与えているものは残念ながらみあたらない。耳科学領域において,乳突蜂巣というものは,中耳腔の容積を増大することによつて鼓膜の振動ができるだけ抑制されないようにする,つまりimpedance matchingという第一義的な機能,いわばprimary functionというものを持つている。このようなprimary functionというものが,では副鼻腔の場合にはいつたい何であるのか,果してそういうものがあるのかないのか―これはなかなかむづかしい問題で,これが結論づけられるためには,まだまだその裏づけとなるに足る背景というか,生物・物理化学的なレベルでの実験成績の積み重ねが必要のように思われる。第1表は,これまでにいろいろといわれてきている鼻・副鼻腔の機能の大要であるが1)-11),副鼻腔のfunctionとしてprimaryのものは何か,ということになると,いずれもまだquestionをつけざるをえない。たとえば,頭蓋の重量を軽くしているという機能は,比較解剖学的に,鳥類では副鼻腔が特によく発達している12)ということからも一応うなづけるが,共鳴器としての機能は,現在までの実験的根拠からするとむしろ否定的であつて,ただ「音色」とか「音質」にはかなり影響するといつた程度のもののようである13)-16)。
さて,鼻腔には,嗅覚作用,加温・加湿作用という重要な機能と並んで,吸気中の塵埃や病原微生物などを取り除くという防禦機能がある。この機能の主役を演じているものは,いうまでもなく,粘膜と,その上を被う分泌物である17)18)。このことは,ひと続きの粘膜で裏うちされる副鼻腔についてもいえるのではないかと考えられる。この防衛機能というものについて,今まであまり検討されていなかつた生化学的な面から見直すことによつて,副鼻腔の生理的な意義を考えるヒントを求めてみた。
The primary function of the paranasal sinuses in the human anatomy is still unknown. However, as a secondary function the sinus mucous membrane covered by a blanket of mucous secretion posessing enzymatic actions and protective properties against a certain amount of bacterial and viral invasion is known.
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