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Ⅲ.耳鼻科病院における外来および入院システムについて
ヘルシンキ大学耳鼻科病院の概要に引き続いてその内容を述べなければならない。まず建物の階毎に紹介すると,正面玄関に入り,右に一般患者の外来があり,ほとんどが約束指定された時間を訪れるものが多い。さらに奥に入ると気管食道外来が独立し,年間1500名前後の食道・気管支および肺患者の内視鏡に加えてmicrolaryngo-scopeによる喉頭疾患の手術が行なわれている(頻度として肺癌,喉頭癌,食道癌およびザルコイドーシスなどが目立つ)。さらに1500—2000名にも及ぶアデノイドを主体とした外来小手術が連日行なわれているのには驚異である。特にアデノイド手術は,すべてエーテル麻酔下にほとんど根治的に切除することを目的としているのは,この国に多い小児中耳炎に原因するのであることがわかつた。他の耳鼻科患者は,5〜6名のdoctor,により毎日午前8時(夏冬関係なく)より始まり,午後1時頃まで診察されている。もちろんこの他にProf.を始めとするspecialistによる外来が持たれると共にコーヒータイムを10時頃に持つのが常とされている。また日本でいう学生のためのポリクリ外来は,他の特別部屋にて指導が十分に行なわれ,これに当るdoctorはteachingのみであることは,良く行き届いている感がする。地階にいくとレントゲンおよび難聴外来と共に音声外来が独立している。この音声外来では,1日25〜30人の患者があり,主としてspeechあるいはvoice therapyが与えられるが,ほとんどが,laryngectomy後の患者で占めている。新患は少なく,1日6人前後の様である。2階には,教授,助教授室(とその外来),講堂(医師のmeetingの場所)および総婦長室が並び,その反対側に男性の癌患者病棟が見られる。ここでは,喉頭癌と耳下腺混合腫瘍が多く,特に後者については,フィンランドばかりでなく,ヨーロッパに多く見られるようである.これら癌患者に対する研究は,手術のみならず,放射線治療については,別棟である専門のradiotherapyclinicにおいて毎週水曜日8時より患者供覧のもとにあらゆる角度よりmeetingが持たれる。3階には女性患者病棟と共に手術室がある。手術室における中央化システムは,いずこも同じであるが連日tonsillectomy, me-diastinokopy, fenestration (ear),tympanoplastyおよびtumorのoperationなどが20〜30例ずつ行なわれている。4階および5階は耳鼻科一般入院病棟であるが,特に4階は,小児のみの病棟で中耳炎,扁桃炎,耳畸形(小耳症と聳立耳が多い)などの手術患者が多数見られ,この反対側に小児のためのリクリエーション施設がおかれているのは,この国における小児の身体障害児に対する施設(子供の家など)およびchildren's castleを見てもわかるように小児医療福祉への力のいれかたが,ここにもその一端をのぞかせているといえよう。6階には,いわゆるdoscentといわれるspecialistのためのprivate patientのみで専有されているのである。さらに7階は,音声障碍による入院病棟で,私のいる間は,ほとんど子供で14人が,phoniatricianおよびkin-dergarden teacherによるspeechorderの教育がなされていた。特に前者については,外来担当も併せて4人さらにassistantが2人で十分にこれらの部門の治療を行なつている。われわれが,比較的予後の良くなつた喉頭癌患者を手術をしてもかかる施設および医師不足のため,なおおきざりにされる傾向に比べて恵まれた病院という感を深くした。診断のためのこれら患者の検体材料は,1階にあるlaboratoryにおいて組織化学の標本に到るまで迅速にかたづけられているのは,うらやましいと思う。参考までに一般外来を訪れる患者の中で,その疾患として頻度の高いものを列挙すると,1.中耳炎(鼓膜切開),2.外耳炎,3.鼻出血,4.扁桃炎および上咽頭炎,5.扁桃周囲炎および膿瘍,6.仮声クループ,7.異物であつた。この中でも,5,6については,ただちに入院させ数日follow upするのが規則となつているよらである。最後にトップの8階にはforeign researcherのための部屋がいくつかあり,かなり完備され,非常によく行届いており諸外国との医学交流に役立つている。
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