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Ⅰ.緒言
外見上異常はないが,耳小骨に奇形があつて生じたと思われる先天性伝音難聴に遭遇する機会がある。本疾患は正常な耳介・外耳道・鼓膜を有しながら,聴力像は水平型伝音難聴で,50〜70dbの気導聴力損失を示す。難聴は非進行性で,かつ一側性のことが多い。それゆえ耳小骨奇形という診断はさほど困難ではないが,奇形部位とその状態について正確な診断を下すことは,はなはだむずかしい。われわれ臨床家にとつて,奇形の修復が容易であるかどうかということは重大な問題である。もし修復がさほどむずかしいものでなければ,積極的に手術をすすめ,聴力を改善せしめることができるからである。しかるに現状では,術前に奇形の状態を詳細に把握し,あらかじめ修復方法を想定することはまず不可能に近い。いきおい手術点検に重点がおかれ,その場で修復方法を計らねばならない。さいわい耳硬化症に対するfenestrationやstapes surgery,慢性中耳炎に対するtympanoplastyなどにより開発された修復技術や修復材料が,そのまま本疾患の治療に応用できることである。しかしながら,予期せぬ奇形に遭遇し,適切な修復方法を見出せないで終る場合が少なからず存在する。本疾患に対する手術療法が敬遠される原因であろう。
本症例はアブミ骨欠損と両内耳窓の欠損がみられた例で,発生学的興味のほか,本例に対し試みたoval window fenestrationが一時的にもせよ聴力改善を示したので,伝音機構,修復技術上種々興味ある問題を提供するものと思われる。ここにその詳細を報告し若干の考察を加えた。諸賢のご批判を仰ぎ今後の資料の一助ともなればさいわいである。
A case of congenital absence of the stapes and the two cochlear windows in spite of the presence of a normal tympanic membrane is reported; the embryology of the involved area is discussed.
The patient was affected with a severe hearing loss. Fenestration of the oval window showed a temporary improvement of the hearing. The clinical effects of the absence of the two windows are discussed.
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