特集 最近の薬物療法と問題点
耐性菌とそれに対する抗生物質
三橋 進
1
1群馬大学医学部微生物学教室
pp.741-750
発行日 1968年10月20日
Published Date 1968/10/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1492204007
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Ⅰ.序
化学療法が発達普及したことによつて,最近種種の法定伝染病はもとより,結核,肺炎,下痢腸炎などの感染性疾患の死亡率は急速に減少してきた(第1図)。しかし死亡の危険は著しく減少したとはいえ,感染症そのものは決して減少したわけではない。種々の薬剤が広く用いられた結果,これらの薬剤のきかぬ,いわゆる耐性菌の蔓延が一方におこってきた。第2図は赤痢菌の例であるが,抗生剤の普及の結果,耐性菌が出現してくる経過をよく示している。さらにまた薬剤の長期使用により,起因菌のエコロジカルな交代がおこり,従来非病原性あるいは低病原性菌と思われ,あまり臨床上注目されなかつたものまでが,その自然耐性や,耐性を獲得しやすい性質などのために,病巣菌の中心を占めるに至る傾向がでてきた。耳鼻科領域においても,中耳炎や慢性副鼻腔炎などの起因菌が,溶連菌や肺炎球菌などによるものは次第に減少し,かわつて耐性ブドウ球菌や自然耐性の緑膿菌をはじめとするグラム陰性稈菌などの分離頻度が高まりつつある。第3図に引用したのはその一例である。
抗生剤,化学療法剤の進歩とその広汎な使用によつておこる菌のエコロジカルな変化の原因としては,筆者は次のような要因を考えている。
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