鏡下耳語
医学の研究ということ
白岩 俊雄
1
1東京医科大学
pp.698-699
発行日 1968年9月20日
Published Date 1968/9/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1492204000
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世間でよく医学博士が他の博士より数が多過ぎるといつて批判する。その議論の根底を探つて見ると必ず実地診療の実績がからんでいるようである。先日もテレビで某私大の教授が,「最近医大の学生が騒いでいるのは,大学では医学は教えてくれるが,臨床医療を如何に上手にやるかということは教えてくれない。われわれは医学の理論よりも上手な医療を学びたいのだ,と言つて騒いでいるのだ」と解説していた。確かに物の見方の一面ではあろう。
元来医学は「人の生物学」であるから不可解な現象がやたらに多くて,どんなに研究しても研究しすぎることはない。医学博士が沢山できることは結構なことで,批判さるべきことではない。ただ「医学の研究」をそのまま「実地医療」に結びつけて考える人々が,「誤診」をしているので,この点は啓蒙する必要があると思う。それと同時に医大の教育面にも考えるべきところがあろう。確かに有名国立校ほど難病の診断の確定には異常な熱情を示すが,一度診断が確定してしまうと気が抜けたようにその治療には熱がこもらない様子は,昔も今もあまり変りがないようである。今日臨床医療の立場から学位制度や専門医制度が問題にされるのは当然であろう。戦後学位一辺倒から米国式の専門医制度に急速に傾いてきたのも,決して馬鹿げた日本の医療制度のためばかりではなく,必然的な反動かもしれない。
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