特集 鼓室形成術
鼓室成形術における鐙骨外科の経験
本多 芳男
1
1東京慈恵会医科大学耳鼻咽喉科教室
pp.989-995
発行日 1962年10月20日
Published Date 1962/10/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1492202947
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I.緒言
慢性中耳炎の際,二次的に鐙骨の固着があつたり,鐙骨脚の消失している場合,或いは手術中誤まつて鐙骨に損傷を加え,鐙骨が伝音機構として役立たなくなつた時等,此の様な場合Wullsteinの原法に従えばⅣ型乃至Ⅴ型の鼓室成形手術を行う事が適応になつてくる。所でⅣ型,Ⅴ型の手術成績は如何であろうかについて一瞥して見るとその成績は顕著でないのが現状である。
一方欧米における耳手術の現状を見ると,勿論耳硬化症の手術が大部分の様であるが,それも既にfenestration或はstapes mobilizationの時期を過ぎて専らstapedectomyが行われている様である。しからばstapedectomyは慢性中耳炎において前述の様な鐙骨病変を伴つた場合に伝音機構の再現法として応用出来ないものであろうか。これについての詳しい文献は見出す事が出来なかつたが,既にWullsteinのⅤ型の存在が斯かる場合のstapesへのEingriffを否定しているものと考えられる。然し実際に耳硬化症へのstapedectomyの技術が慢性中耳炎の際の鐙骨固着に対して利用出来ないものであろうかは検討する価値あるものと私共は考えたのである。この際耳硬化症と異る点は中耳腔並びに周囲蜂窩における炎症の存在と鼓膜及び耳小骨等の伝音系の障害である。これ等の諸障害に基因する術後の負荷を克服出来れば耳硬化症に行われているstapedectomyを行つて差支えないものと考えるのである。
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