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鼓室成形術施行に際して,Schallsondeの有する臨床的意義は一体如何なるものであろうか。数年前,ようやく本手術が一般に普及し始めた頃は術前に於てかなり微細な点までの診断が必要であると考える風潮が強く,Schallsondeを始めとしてcovering test,負荷検査等が重大な意味を持つものとして検討され又実施されていた。然し乍ら,その後時がたち,手術法が広く滲透し,又誰しもが相当にその術式に慣れ,いろいろの事が判つて来るにつれて,少くとも除去清掃しなければならない病変が鼓室内に存在する場合には,手術時に中耳腔内の状態に対する精細な視診が行われなければならないし,又一方殆どすべての型の中耳性難聴に対して何らかの形での成形の道が残されているのであるから,術前ことさらに煩雑な方法を用いてそれを診断する価値は少いものではないかという考え方が持たれるようになつて来た。学問上の興味はともかくとして,実際に或る中耳性難聴に対してこれから鼓室成形術を施行しようと考えた時に,一体どの位の検査をしてどの位の知識を得ておく事が必要なのかという点については,従つて多くの研究者の間で現在尚一致した意見は得られていないようである。術前にかなり精密な知見が得られていれば勿論術者にとつて非常に有利である事は明らかであるが,その事は必ずしも容易ではないし,又場合によつては鼓室内病変のために健全である伝音機構を一時的にもせよ破壊しなければならない事も無いわけではないのである。元来鼓室成形術という手術は,非常に変化に富んだ手術である。云い換えれば症例によつてその術式は千差万別であり,1例毎に考えを新たにする必要がある。従つてそれに対する検査法も,必ずしも常に固定した一つのシリーズがあつてそれを無差別に行うというような形のものではなく,種々の要因の事を考え乍らcase by caseに進めて行かなければならないものであると思う。
Schallsondenaudiometrieもそのような観点に立つて考えられなければならない。その細かい手技,判定法等については本誌34巻5号に詳述したので,今回は上記の立ち場に於ける私共の考えを述べて見たい。
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