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Ⅰ.緒言
腎出血は衆知の如く腫瘍,結石,結核,などの腎内性病変のほか,腎外性乃至全身的原因によつても起りうるものである。現在の泌尿器科学の進歩は大部分の症例においてその出血原因を探求することが可能となつたが,しかし個々の症例においては,なお常に出血原因を明らかにしうるとは限らず,時には片側腎摘出の止むなきに至り,その摘出腎に対する組織学的検索によつても,その原因を解明することが不可能な場合さえ経験するという。
1889年Sabatierは腎の神経痛を伴う腎出血を記載し,その後しばしば疝痛を伴う腎出血の症例が報告された。中には疝痛なしに唯腎出血のみの症例もあつた。これらの症例において腎を臨床上のみならず病理解剖学的検索の可能であつた時ですらも少くとも出血に関係ある変化を発見しえなかつたこともあつた。従つてこの奇異な疾患に対して学者はそれぞれ種々なる名称を与えてきた。Sabatierはnephralgie hématuriqueと名付け,或はSenator, Scheede, Passetらは腎血友病renale HaemophilieとBrocaはhémo—philie renaleとか呼び,又Malkerbeは特発性血尿hématurie essentielle, Klemperer, Leguenらは血管神経性腎出血とも呼んでいた。特発性腎出血essentielle Nierenblutungなる名称はNitze, Zuckerkandle, Wulffらにより提唱されたものである。以上のごとくその名称すら定らず況んやその原因に至つは全く不明であつた。その後病理組織学的検索の結果,本症は病理解剖学的根拠なしとは断言出来ず,精細に検索すれば必ずや解剖学的変化を発見しうると主唱され,多数の学者の賛同をうるに至つた。例えばIsraelは腎における限局性炎症性病巣に帰すべきものであるといい,その他,血管病変,血行循環障碍,腎乳頭,腎盞,腎盂における種々の病変などの原因が追究され,その本態の解明にはなお撓まざる努力が払われている。又,近来腎外科の発達に伴い,腎出血原因となる小病巣例えば腫瘍,結石,結核などが発見され,腎出血がこれらによる場合が少くなく,従来特発性腎出血と称されていた疾患に対する否定的材料が次々に報告されており,本症の内容は次第に狭められてめた。しかし現在の進歩した診断検査方法によつてもなお本症の原因を探究しえない症例はさほど稀ではなく,時には剔出腎に対する病理組織学的検索によつても出血と関係ある病巣を発見出来ないこともある。かかる原因不明の腎出血疾患をいわゆる特発性腎出血と呼んでおるが,この治療法については現在なお適確な治癒効果を挙げうる方法が見られないようである。
Suzuki and associates report that they have successfully brought 3 cases of idiopathic re-nal hemmorrhage to cure by means of tonsil-lectomy in 1 and artificial hibernation caused by use of chlorpromazine and pyrethiazine in the other 2. The cause of renal hemorrhage of this nature is still unknown clinically as well as pathologically in most cases and con-sequently, treatment thereto is likewise not clear. From the results obtained in these ca-ses it may be inferred that idiopathic renal hemorrhage may be caused by irritation of autonomic nervous system particularly that aggregates in the region of pharynx includi-ng the palantine tonsils and through whichin some way the kidneys may be effected. These results therefore support J. Reilly's vi-ewpoint that such idiopathic renal hemorrha-ges are caused by irritation of autonomic nervous system, Reilly's phenomenon.
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