--------------------
ポリエチレン合成樹脂膜による人工鼓膜の試作
高階 春光
1
1東北大学耳鼻咽喉科学教室
pp.665-667
発行日 1956年10月20日
Published Date 1956/10/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1492201647
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
Ⅰ.緒言
中耳炎治癒後鼓膜穿孔し高度の難聴を遺す不快なる現象を見る者が多く,この伝音系難聴に対する聴力増強に関しては従来人工鼓膜なる名称のもとに多くの臨床的実験が報告されて居り,既に18世紀に於てMartin, Pernellは鼓膜の欠損或は穿孔を人工的に補う事を試みた。始めて小綿塊を使用し之に所謂人工鼓膜なる名称を与えたのは,1848年Yearsleyで,爾来種々の無刺戟性且つ最も有効的な人工鼓膜えと研究が進められて来た。しかし人工鼓膜は19世紀に至り少しく進歩せりと雖も見るべきものは無く僅かに綿塊,ゴム,金属板,パラフインガーゼ,鶏卵殻の薄膜,竹紙,特殊絆創膏,よしの葉,グツタペルカ等が用いられているにすぎない。近年合成樹脂の医学的応用に関し各方面に亘つて種々実験されておるが,ポリエチレン樹脂も亦その一種で1936年合成されたものである。
本樹脂の性質は比較的強靱で非吸湿性,柔軟性を帯び熱に対しては軟くなり種々の型にして使用出来る事から現今管状または食品包装薬品包装等に使用されて居る。殊に本樹脂は有害なる可塑剤を全く必要としない点でビニール樹脂の如き組織刺戟性がなく,発癌作用等も全くない事が実験的に確められて居る。常温では強酸,濃アルカリ等にも侵されず勿論一般に使用されている消毒剤等にも安定である。又本樹脂を膜及び管状として動物及び人体に用いて何等の組織的変化の無かつた事が報告されて居る。仍で著者は以上の如き数々の利点を有するポリエチレン樹脂により人工鼓膜を試作し各種伝音系難聴者に就き聴力増強程度を考察しいさゝか好結果を得たのでこゝに報告し諸賢の御批判を仰ぎたいと思う。
Copyright © 1956, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.