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序言
1953年に長崎大学の柴田精郞助教授は本誌上に「鼻中隔棘状突起成因に就いての比較解剖学的な見方」と題する論文を発表し,その結論として,鼻中隔突起特に棘の成因の一つとして哺乳動物横突起又は水平板の遺残物を拳げる事が出来ると述べられた。当時我々の教室では翌1954年の高橋助教授の宿題報告「鼻中隔畸形の成因とその臨床」を控え,又私はその仕事の一端として哺乳動物頭蓋と鼻中隔に就いての検索を行つていたので,氏の論文は甚だ興味深く読んだ。即ち氏が,従来の成書には記載のなかつた哺乳動物鼻中隔に於ける鋤骨各部の分類命名をなされた事には敬意を表し又以後の検索に甚だ便を覚えたのであるが,上記の棘成因との関係に就いての説には疑義を抱き,之に就いては既に宿題報告に於いてもその要旨が述べられているが,その後の検策所見と共に此処に哺乳動物鼻中隔に於ける鋤骨形態の意義を述べ,尚之と鼻中隔突起との関係に就き,当教室の鼻中隔畸形成因に関する考え方から述べてみたいと思うのである。
さて,上記の柴田氏による横突起であるが,吾吾は宿題報告に於て之を横板として記述したが之の横板に関しての文献はClelandのものが最も古く(1862. Ossiculum Bertiniに相等すと云う)次でHarrison-Allen(1882)がLamina tran—sversalisと呼び,1887年Zuckenkandlは鼻咽頭管と篩骨蜂窩とを隔てる骨板を二部に区別し,その後の部分をSchlussplatte,前の部分をHaftplatteと呼んでいる。又その前者は別名Lamina termi—nalisとも呼ばれた如く,之が原猴類に認められるという文献もある。又この骨板は臨床的関係についても論じられた事があり,古くは1909年にS. Hettは犬猫羊海猽に於ける"Septa"が,人鼻中隔と下鼻介後端との間の癒着に相似性があると述べて居る。処が之の発言に対しMackenzieは,棘はある種の下等動物に一般に見られるものゝrudimeutäre Gebildeではないであろうと云つている。更に1937年にStupkaは新生女児で高度の頬,口蓋,上顎裂を有するものゝ組織学的所見から,その鼻中隔下端から,前頭断で水平に両側に延びる軟骨板が鼻腔側壁に移行している所見につき之の非定型的な軟骨はCart. paraseptalisではなく,Cart. basalis ähnliche Formen(Lamina transversalis ant.)の縮少が行なわれなかつた為のHemmungs missbildungによるものであろうと述べている。然しこの軟骨板は第1図によつても鼻中隔軟骨下端より両側に延長していて鋤骨とは無関係である故,私としてはそれが横板とは異るものと思われる。尚最近の米誌The Journal of Laryngology and Otology(1954)によると,James H. Scottがこの骨板をthe transversenasal septumと呼んでいるが,之は吾々に最も理解し易い呼称ではないかと思う。そこで吾々は既に呼称している様に之を横板と呼ぶのが最も適切ではないかと考え之に做うつもりである。
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