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耳に飛んだ蚤
pp.136
発行日 1954年3月20日
Published Date 1954/3/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1492201101
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「猿蓑に隙明や蚤の出て行く耳の穴」という丈艸の句がある。碧梧桐氏は「隙明」を「ひまあき」又は「ひまあく」と読んでいる。耳の穴へ蚤が這入つて出すに出されず,うるさくて困つて居つたのが,ようよう出て行つて,隙明がしたようにせいせいした心持ちになつた意と解している。
内藤鳴雪翁は読み方を「ひまあき」でいゝが,「すき間の明り」ということに解している。もつとも,これには翁自身の経験があつて,「僕の子供の時分或る夜,蚤が耳へ飛び込んで,キヤッキヤッ云つて騒いだ。すると父親がしづかにしろ,早く耳を行燈の方え向けろ,直ちに出るからと云つた。成程,それで出てしまったが,その出て行く折りの待ち遠く,且つイライラと心持ちの悪さ,今に覚えている。よつてこの句も最初見た時,直ぐに右の解釈を与えた。」といゐのである。
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