発行日 1949年2月15日
Published Date 1949/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661906428
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アラビア千一夜物語のバグダットの盗賊の話の中に空を飛ぶ絨毯と云ふのがあります。その絨毯は人がそれに乘つて空を飛ぶことが出來るものと云ふのであることは皆さんもよく御承知の通りです。ところが,そのアラビアの砂漠に空を飛ぶ擔架があつたのです。それは今から24,5年前のこです。當時小アジアのシリア地方はフランスの委任統治地でありましたが,屡々叛亂や暴動が起りました。フランス政府の軍隊はその鎭壓のために度々鬪つて相常負傷兵が出ました。それ等の負傷兵をこのアラビアの砂漠地帶で完全に治療することは到底出來ません。そのため少なくももつと開けた地中海沿岸に近い市に送つて,その地の病院で治療するか、或は更にフランス本國迄も送り還して治療する必要がありました。この樣な事情やこのような場合,負傷者を砂漠地帶から後送することは大變な仕事でした。それは不毛未開の砂漠地帶には勿論汽車も通つて居りません、自動車の便利もありません。從つて負傷兵の運搬には駱駝や驢馬の背を借りなければならなかつたのです。その上炎暑は激しく,速度は遲く,駱駝や驢馬の輸送では動搖が強くて患者は搖られて苦しみます。更に後送の途中には叛亂軍の暴徒の襲撃の危險もありますので,後送者の安全を守らなければならないと云ふ困難もあつたのです。以上の樣なさまざまの不便や困難で砂漠地帶からの負傷兵後送方法に就ては一大難問題が起つたのでした。
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