論説
耳鼻咽喉科疾患と動脈注射療法
中村 四郞
1
,
小坂 四郞
1
1日本大學醫學部耳鼻咽喉科教室
pp.4-12
発行日 1948年4月1日
Published Date 1948/4/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1492200040
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緒言
これまでいろいろな疾患を治療する場合,藥劑の投與方法は大體きまつていて内服か皮下注射か又は靜脈注射によることが一般の常識とされていたので,動脈内に藥劑を注射することは殆んど異例と考えられていた。しかし治療の目的で藥劑を動脈に注射する方法は既に古くから考えられ,又實際に多くの先輩が試みたことであつて,例えばヂフテリヤに對してヂフテリヤ血清を,黴毒に對してはサルバルサンをそれぞれ動脈内に注射してこれを治療したという報告が文献にも現われているが,こういう疾患にこんな藥劑を動注すれば,色々な副作用や障碍が伴うばかりでなく他の注射方法よりも特に優れた利點も見出されなかつたために,その利用價値が認められないまゝに放置されていた。處が1944年(昭和19年)になつて瀨尾教授はこの方法をとりあげて所謂「動脈性衝撃注射療法」と題して,外科領域における急性化膿性炎症を始めその他の疾患に對してもこの療法が卓越した方法であることを提唱した。若しこの方法が急性化膿性疾患に對してそれ程の效果があるものとすれば,治療の對象の大半が急性化膿性疾患であるところの耳鼻咽喉科領域に於ても少からず重寶がられることは我々の常識である。耳鼻科領域における應用としては,1945年に耳鼻咽喉科東京地方會において,慶大中島博士が口腔底蜂窩織炎に對して著しい效果のあつたことを一度報告された。
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