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思いつくまま(28)
斎藤 忠夫
pp.709
発行日 1963年7月1日
Published Date 1963/7/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1491203562
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大阪に来てから2カ月になる。急に大都会に放り出されると色々のストレスも加り,心身に変化がおこつてくる。通勤時の人と車の混雑は聞いてはいたがたまの学会等でエトランゼーとして経験する位ではよくわからないが,これから大阪の住人にならねばならないという条件が加わらないと身にしみて来ない。
最初の間は自宅と大学の間の道順を取違えない様に懸命だから先ず間違えることはない。その中急に若い御婦人の多いのに目が止る。宇部では成人式でなければ見られない様な景観が毎日の行きかえりに展開する。しかも遙かにスマートである。これは珍しい事だが2,3日もキヨロキヨロしている中に物凄く目が疲れて来る。同時に類型性を見出す。又いくらチヨロチヨロしてもどうにもならないという諦観が出来て落着いて来る。この様に精神に平和が訪れて来る頃に強い睡魔がやつて来て家で十分唾眠をとるのだが到る所で眠くなる。しかしその頃になると途中の道筋等にも安心感が出来る。と思つてい途端に地下鉄の入口を間違えたり,京都方面に行く積りが神戸行に乗つておつたり盛にヘマをやり出す,只感心したのは地下鉄の改札口で国鉄のパスを出し,知らずに通過しようとしたら係に注意された。あの人込みでよく見ているものだ。天晴れである。これがプロというものだろう。この時期を通りすぎると列車の中で腋臭のにおいがわかる様になる。
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