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思いつくまま(7) 舌の感覚
宍戸 仙太郎
Sentaro SHISHITO
pp.195
発行日 1960年2月1日
Published Date 1960/2/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1491202772
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- 文献概要
小生の友人で福島で開業している婦人科の先生は,有名な酒豪で斗酒を辞せずの組である。ある時,酒のことで彼の奥さんがしみじみ述懐していた。主人は毎日晩酌をしているのが花春の二級酒,ある晩,奥さんは二級酒がきれたので特級酒を出して「今晩の酒は如何ですか」と聞いたら,主人は今晩の酒はまずいと答えたそうで,「あんな酒呑みでも本当の酒の味は分らないものですね」と。この話しを聞いて結局慣れたものが一番おいしいのだなとつくづく感じた次第である。実際小生でも他処で山海の珍味を出されるより,家で静かに学生時代から食べつけた「コロッケ」と「油ののつた秋刀魚」の焼きがけで一杯の方がおいしいと思つている。
然しこんな調子なので家内にはいつも舌の感覚は0ですねとひやかされているが,その度にもつとうまいものを食べつけて舌の感覚を訓練する必要があるとも感じている。税務署の係りの人は酒をなめてみただけで酒の名前をあてるそうだが,訓練すれば舌の感覚もある程度の進歩はのぞまれるものらしい。
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