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思いつくまま(3) 北国の生活
高井 修道
pp.1227
発行日 1959年10月1日
Published Date 1959/10/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1491202681
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私が札幌に赴任したのは昭和31年3月末の肌寒い吹雪の日であつた。薄暗い駅前の広場は残雪を処々に残して泥沼のようであつた。それでも正面の幾つかのネオンが街らしい気持を誘つてくれた。私の札幌の第一印象は暗い,汚い町という感じであつた。この町には春が仲々訪れて来なかつた。5月の節句というのに未だ藻岩山には雪が残り,冷たい風を吹き降していた。私は間借りした二階家の窓から藻岩山をながめながら何時になつたら雪が消えてそよ風が吹いてくるのかと長嘆息した。やつと6月になつて山々の雪が融げ樹々の緑が日に日に濃くなつて来た。大通り公園のチユーリツプ,スミレ其他種々様々の草花がパツト咲き,街を行きかう人々はやつと息をふき返して来た。6月末から8月にかけての札幌は全く美しい。とりわけ北一条のアカシヤ並木,最近めつきり多くなつたライラツク等はエクゾチックで又ロマンチツクな風情がある。乾ききつた空気,澄みきつた空,梅雨がなくカラツト晴れた日が何日も続き,ピクニツクに,炊事遠足に.いちご狩りに人々は唯もう無精に緑の自然を楽しむ,でもこれはほんの束の間の楽しみである。9月に入ると銀杏の葉が黄ばみ柏,アカシヤの葉がちらほらと落ち始め,9月末になると落日は急に早くなり木枯が吹きまくり山の樹も街路樹も裸になり冬仕度が始まる。
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