特集 性病
性病の疫學と豫防原則
宮入 正人
1
1國立公衆衞生院疫學部
pp.573-578
発行日 1952年11月10日
Published Date 1952/11/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1491200842
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疫學とは?
生物集團に發生蔓延する疾病異常の分布,消長を集團現象として觀察記載し,そのよつておこる機序を考究する學問が疫峯である。疫學が明かにされゝば疾病異常の發生蔓延を豫防々遏する合理的な對策が樹てられ,更にその對策の効果を判定し得る。これは恰も臨床醫學に於いて個々の患者の症状を觀察し,病理を明かにして有効な治療を行うのと同様である。臨床醫學の對象は個々體であり,疫學の對象は集團である。これが疫學或は流行病學(Epidemiology)が病理學に對して"疫理學"と提唱された所以でもある。
然らば疾病異常とは何か。こゝではこれについて論ずる餘裕がないので,たゞ單に正常な身心状態よりの逸脱と云うにとめておこう。とにかくこの様な疾病異常が各種の生物集團に發生蔓延する現實にあたつて,私共は先づこれに關與する要因をとり上げてみる必要にせまられる。すなわち宿主と環境がその基本的要因である。環境には氣象的,或は地理學的な自然環境と,他の生物群を包含する生物學的環境更に人間社會は宿主たる可き人間の集團である結果ここに社會經濟的環境が成立する。この三つに大別して考える事が出來る。勿論これ等が相互に直接或は間接に影響しあつて,時の流れと共に移り饗つている事は論を俟たない。
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