論述
性病豫防法について
中原 龍之助
pp.356-358
発行日 1948年10月25日
Published Date 1948/10/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401200359
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
性病の豫防については,昭和2年4月5日に公布せられた花柳病豫防法によつて行はれて來たが,この法律は主として業態者即ち私娼に對するものであつて,一般國民の性病に對しては何等特別の對策もおかれてなく,誠に不完全なものであり,識者の間には眞劍に改正の必要が叫ばれて來たのである。しかし舊來の風習,國民的感情から改正では非常に困難であつて,性病については臭い物には蓋といふ考え,又は恥しいかくすべき病氣として取扱はれて來た。國民の間に蔓延してゐる性病を如何にして豫防し撲滅するかについての點についてはあまりにも忘れられてきたのである。
戰爭と性病の蔓延はつきものであつて,昔から幾多の事實が之を明に示してゐるところであり,且つ又殊に敗戰といふ極めて最惡の條件の下にあつて道義の低下と人心の混亂,經濟的窮乏は性病の蔓延に最適の培地であり,この際適切な處置をとらなければ悔を千載にのこすことは明瞭である。最早單に賣笑婦のみの對策に於ては效果があげられないのである。このため終戰後連合軍最高司令部の覺書にもとづき昭和20年11月22日花柳病豫防法特例が制定せられた。こゝに於て性病は傳染病としての取扱ひの下に届出制が定められ,性病患者に對しては強制治療命令も出し得るよう一般國民の性病の豫防について一應取上げられたが,しかし依然として業態者の對策が主たる部分を占めていて不完全なものであつた。
Copyright © 1948, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.