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サルバルサン皮膚炎とシスチン
櫻根 好之助
1
1大阪市立醫科大學
pp.241-244
発行日 1951年5月1日
Published Date 1951/5/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1491200517
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まえがき
松岡憲周博士が多年に亘る研究の結果公にされたパニールチン(Paniltin, Pntと略す)はZystinを主劑とする製劑であり,Zystinは含硫アミノ酸の一種で其,SH基の生理學的作用が重要意義をもつている。云う迄もなくZystinは生體蛋白の普遍的な構成因子であり,人體の健康保持に缺くべからざる重要な榮養素である。健康状態に於ては正常値を保持している組織内のZystin量も榮養の低下や熱性疾患の場合には著しく減少し,諸種の障碍を惹起するもので,この際Pntの注射に依つてZystinを補給するときは,肝臓骨髓細胞,網状織内被細胞等の各種體細胞を賦活して新陳代謝をかため,生理機能を旺盛にし,又顯著な毒素中和解毒作用を行い,體質の變調を整え生活力を増強する根源となるものと考えられている。
他方化學療法の嚆矢と云うべきEhrlichのサルバルサンの驅梅療法は幾多の變遷を經て現今は,Mapharsenに代りつつあるが,何れにしても中毒現象の發現することは否み難い事實である。之に對する解毒療法としては佐谷,黒田の詳細な動物實驗の成功が教える如く次亞硫酸曹達が有効であり,現今も旺んに使用せられているが,續いて佐谷,藤野は其内に含有せられているSH基に着目し,Zystin及び其還元型であるCysteinが何れも實驗的に強力な砒素劑に對する解毒作用を確認し,其因つて來る所以を肝臓機能の恢復旺盛化によるものとし,肝臓内のグルタチオンの増量を指摘している。
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