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はじめに
睡眠医学は,複数の専門分野の境界領域にある学際的な臨床医学である1).睡眠呼吸障害(sleep disordered breathing;SDB)は,睡眠障害と呼吸障害のオーバーラップする領域で,SDBの一部を睡眠時無呼吸症候群(sleep apnea syndrome;SAS)が占める(図1)2,3).
1930年,Economoが,いねむりを主徴とする流行性脳炎の意義について総説を発表し4),Bergerが,ヒトの脳波測定について総括した5).睡眠医学の歴史を振り返ると,神経病理学と神経生理学の礎となったこの2つの記念碑的業績がまとめられた1930年を,睡眠医学のルーツが刻まれた年,黎明「夜明け」としてもよいだろうと思う.
2020年,EconomoとBergerの2つの総説から,ちょうど90年が経過した4,5).一般に,一世代を30年とすると,祖父母までの三世代90年間なら,ヒトは親近感をもって遡ることができる.今回,30年単位の人生の時間軸に則って,全3回で睡眠医学の歴史を振り返ってみようと思う.
歴史の記述は,概して,著者の立つ位置(今回は基礎研究/臨床医学,専門領域,所属/免許/資格の違い)によって内容が異なってくる.筆者は,モデル動物(イヌ)を使った生理学研究を行いつつ,循環器/呼吸器/神経疾患のSDB/SASにかかわってきた.したがって,話題の中心は「睡眠中の呼吸と循環と神経」である.この作業は,最近の本誌特集「SASと睡眠関連低換気障害の現況と課題」に,それらの歴史を補足するためでもある3).
なお,睡眠の外因説(生体外からの神秘的な変化で起こる)と内因説(生体内の変化で起こる),内因説(唯物論)のうち体液理論(液性因子—血液,脳脊髄液が制御する)と神経理論(神経因子—脳と神経が制御する)をめぐる睡眠研究の変遷は,成書を参考にしてほしい6).また,最近の睡眠障害国際分類(International Classification of Sleep Disorders 3rd;ICSD-3)によれば,睡眠関連呼吸障害群は,今回のSDBと同義である.この睡眠(関連)呼吸障害(群)には,閉塞性SAS,中枢性SASとチェーン・ストークス呼吸,睡眠関連低換気障害群としては中枢性肺胞低換気症候群と肥満低換気症候群,身体疾患や薬物・物質による睡眠関連低換気など,17種類の病態が含まれる3).
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