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はじめに
日常臨床において,臨床医と病理医の接点の多くは,「病理診断書(病理レポート)」になると思います.現在,多くの施設において電子カルテと部門システムの連携を通じて,臨床医は電子カルテを閲覧しながら,検査値や画像・病理などの各種レポートを参照することが可能になっていると推測します.
病理レポートは日々の診療でそう頻繁に閲覧されるものではないですが,最終診断の根拠であり,治療方針決定に決定的な影響を与えるなど,極めて重要なデータの一つです.
したがって,臨床に携わる皆さんには,病理レポートを構成する内容と,それらにかかわる病理医の立場,視点,考え方などについてはぜひ精通していただきたいと考えます.特に診断に至る根拠となる所見記載や,明瞭な診断が確定せず記述診断とされている症例,また診断名に「疑い」に一致するprobable,suggestive,cannot be ruled outなどの記載がある場合の考え方など,デリケートなニュアンスを読み取ることが大きく診療に影響を与える場合があります.
重要なことは,臨床・画像・病理それぞれの立場から,患者さん個々の病態について深くコミュニケーションを取る集学的検討(multidisciplinary discussion;MDD)を行うことであり,できる限りのコンセンサスを得ることで患者さんにとって最良の治療法を選択できるようにすることでしょう.
レポートの解釈に通じるだけでなく,身近にいる病理医と積極的に症例について話し合い,その「クセ」を読みましょう.診断のみならず,レポートでは記述しきれない微妙な所見や考え方を知れば,臨床上の判断や今後の研究にも有用な材料となるに違いありません.一方,病理医は患者から距離があり,また専門外とする分野においては,新規の治療や検査データ,画像診断のアップデートなどに暗くなりがちです.多くの病院では一人か多くても二人の病理医が全身の診断をカバーする場合が多いことも大きな要因です.互いにギャップを埋めていく相乗効果を保つことが望まれます.
呼吸器領域に限らないのですが,診断や治療の方針は「腫瘍」と「非腫瘍」で大きく異なります.ここでも,そのアプローチやテクニカルタームの違いから,この2つを分けて取り扱おうと思います.ですから,本稿では前半においては,呼吸器内科医が日常的によく遭遇する腫瘍の病理診断に至る経緯を,検体採取法ごとに具体的な症例を交えながら記述しました.後半では,特に苦手意識が生まれる可能性の強いびまん性肺疾患,特に間質性肺炎の病理診断について,どのように考え,診療に生かせば良いかに力点を置き記述しました.
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