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I.はじめに
1929年にドイツJena大学のHans Bergerが脳から発生する電気的現象を捉えることに成功し,その後その検査法は脳波(Electroencephalogra-phy:以下EEG)として脳機能の解明,脳疾患の病態生理の把握等広く臨床に応用されてきた.EEGは脳の自発活動電位の変動を電極によって記録したものであり,臨床的には縦軸に電位変動,横軸に時間をとり,電位の経時的変化を観察したものである.大脳皮質の活動電位は,尖端樹状突起と神経細胞の興奮性ならびに抑制性後シナプス電位よりなるものと考えられている.この時生じたイオン電流は,興奮している樹状突起と細胞体のわずかな部位を流れる電流(以下ダイポール)と細胞膜の外側を通って戻る帰還電流の2種類の電流を形成している.このように発生した電流に伴う磁界は,当然ダイポールと帰還電流に由来するが,頭部を球とみなすと帰還電流がつくる磁界がキャンセルされるため,脳から発生する磁界はダイポールの作る磁界のみとなる.この磁界を頭皮上から高感度の磁束センサであるSuper-conducting Quantum Interference Device(以下SQUID)磁束計と超伝導コイルを用いて測定した結果を経時的に表示したものが脳磁図(Magne-toencephatography:MEG)である.つまりEEGとMEGは,神経細胞の興奮によって生じる電気活動をおのおの別の面から観察したものである.これら2者間の大きな違いとしては,MEGに寄与する神経細胞が脳内の全ての神経細胞ではないことである.磁界はダイポールの作る電流と直交するように発生するため,頭部の表面に対して平行に存在する神経細胞,すなわちシルビウス裂や脳底部を除けば,脳溝に存在する神経細胞の作るイオン電流が生じる磁界のみがMEGに寄与することとなる.また,MEGはEEGが皮膚,頭蓋骨,脳等の形態構成材料の電気的性質の影響を大きく受けるのに対し,その影響が非常に小さく脳内の電流源の局在推定をすること(逆問題の解決)が容易であることが大きな特徴である.近年の多チャンネルMEGのコンピュータ技術の目覚しい発展により膨大なデータから複雑な逆問題計算や高速の画像処理が可能になったことでMEGが脳機能の解明の大きな武器となりうることが期待されている.
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