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Ⅰ.はじめに
脳神経外科手術において,脳機能温存のためには電気生理学的モニタリングが,低侵襲,かつ信頼性が高い手法と考えられている.1929年にHans Bergerが脳から発生する電気的現象を捉えることに成功し,その検査法は脳波(Elektroenkephalogram[独];electroencephalography:EEG)として脳機能の解明,脳疾患の病態生理の把握等広く,基礎脳科学,臨床医学に応用されてきた3).このときBergerは8~12Hzの電位変化をBerger rhythm(今日のαrhythm)と命名している.その後,生体になんらかの刺激,課題を負荷することで誘発されるEEGを加算平均することで誘発脳電位(evoked potentials:EP)が開発された.EPではクリック音刺激による聴性脳幹反応(ABR),末梢神経神経電気刺激による(SEP)などが代表的であり,現在広く臨床に普及している.
生体計測とは機序の異なる脳機能マッピング手法としては,1950年代頃にPenfieldらにより行われた高周波電気脳皮質刺激法がある25).近年は短時間作用型麻酔剤であるpropofol,簡便な麻酔深度モニタ(bispectral index:BIS)などの開発により麻酔深度のコントロールが容易になったため,覚醒下手術を行う施設も増えている.この覚醒下手術と皮質電気刺激を併用して脳機能マッピング・モニタリング下に頭蓋内病変の摘出が行われているが,覚醒下手術は術前の患者の状態と,適切な電気刺激閾値,刺激部位の決定などが容易でないため,適応患者が限定されるのが現状である.
一方,近年急速に進歩した画像,計測技術の発展に伴い,非侵襲的に脳機能の画像化が行えるようになった.非侵襲的脳機能マッピング法としては機能MRI(fMRI),脳磁図(MEG),positron emission computed tomography(PET),近赤外線スペクトロスコピー(NIRS),および経頭蓋的磁気刺激装置などが挙げられる.電気生理学的モニタリング装置も,シールドやデジタルアンプの改良,刺激,麻酔方法の進歩により,雑音の多い手術室内での全身麻酔下の患者から,SEPをはじめ運動誘発電位(MEP),視覚誘発電位(VEP)などの計測が可能になった.
このような機器,技術の進歩で非侵襲的に脳機能局在を把握することが可能になりつつある.本稿ではまず近年臨床に応用されている脳機能画像・モニタリングについて解説する.さらに臨床において,上述した技術を融合することの重要性と,より確実な脳機能温存を目指した頭蓋内病変の切除手術の実際について述べる.
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