扉
モンテ・クリスト伯
飯塚 秀明
1
1金沢医科大学脳神経外科
pp.104-105
発行日 2000年2月10日
Published Date 2000/2/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1436901843
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私立医科大学に勤務し教育職としての給料を受けている身であるから,学生の教育は当然のことながら最優先の仕事である。学生の講義や臨床実習などを担当するようになってから10年近くなるが,恥ずかしいことに,教育のやり方,技法たるものを学んだことがない身であるので,これまで試行錯誤の連続で現在もそうである.
学生に興味を持たせる意味で,講義中に,卑近な譬え話しや,自身の苦労を話すことがある.ここ3年ほど,意識障害のテーマでの臨床講義をしているが,そのなかでLocked in症候群を説明するときに,アレクサンドルデュマの“The Count of Monte Cristo”の話をしている.Noirtier de Villefort老人は卒中のために身動きできない状態となるが,瞬きにより自分の意志を伝え,意に沿わぬ息子の検事総長に一泡ふかせる描写があることは良く知られている.PlumとPosnerの名著,“The Diagnosis ofStupor and Coma”のなかにも引用されているのは周知のことと思う.この話をしてもこれまで学生の反応は全くない,今年もそうであったが,学生にこの小説を読んだことがあるか尋ねてみると一人もいない.小説自体は,岩波文庫で7巻ほどになる長編だったと思うが,子供向けの“巌窟王”の名を言っても,ほとんどの学生が知らない.現在の教育システムでは,受験のため,暗記,詰め込み,ガリ勉に,多感な青春の2〜3年を費やすことになり,長編小説を読む時間などはないのであろう.
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