皮膚科医学史
上原元伯『暴瀉病ニ付』
服部 瑛
1
1医療法人はっとり皮膚科医院
pp.482-488
発行日 2021年5月1日
Published Date 2021/5/1
DOI https://doi.org/10.24733/pd.0000002503
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ここに上原元伯の『暴瀉病ニ付』という小冊子の写しがある(図1).私が初めて手にした古文書である.幕末安政6年夏,暴瀉病(コレラ)に接して,その病状を調べ病因にまで考究した一書である.たどたどしいながら読み終えて,コレラをなんとかしたい元伯の熱意が伝わってきて感銘を受けた.と同時に,元伯と対峙して教授されている気分にもさせられた.この小冊子が運命的な出合いだったといったら大袈裟かもしれないが,この出合いからコレラに関する古文書を渉猟したし1~3),なによりも幕末史に興味をもって,古文書の『安政記聞』から『文久記聞』『元治記聞』『慶応記聞』を読み進めることになったのである.
コロナ禍のいま,私たちは理不尽な生活を強いられている.しかし,それでも感染症の概念は知っており,各種治療法やワクチンといった防衛手段に期待することもできる.幕末当時は,『続日本紀』でみる奈良時代と同じように4),疫病に関してはまったく暗黒の世界だった.そんな中,上原元伯という医師は,果敢にもコレラという疫病に渾身の力を込めて立ち向かったのである.この書を埋もれさせていけない,と強く思った.現代に戻して元伯の意気込みを是非掴み取っていただきたいという願いから筆をとった.
(「はじめに」より)
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